2006年8月9日(水)「しんぶん赤旗」
労働経済白書
非正規増で賃金抑制
企業「回復」の成果 配分に偏り
厚生労働省は八日、二〇〇六年版「労働経済の分析」(労働経済白書)を発表しました。企業が非正規雇用の増加など「就業形態の多様化」によって、賃金を抑え、競争力を高めてきたことなどを分析しています。
同白書は、景気が回復するもとでも、派遣労働など非正規の雇用が増加し、正規雇用の割合が低下している事実を明らかにしています。そのうえで、従来の景気回復期との違いとして、雇用の増加や賃金の改善など、労働者にその成果の配分が一律ではなく、偏っていることを指摘しています。
とくに二〇〇〇年以降、増加している製造業での非正規雇用について、企業が「賃金コスト」を抑制し、「柔軟な生産体制」をつくることで、企業が国際的な競争力を高めたと分析しています。
電機産業などでは製品の売れる期間が短くなることで、請負や派遣労働者を生産変動の調整に使う動きが広がっていると分析し、「請負労働者への単なるリスクの押し付けにならないようにしていくことが求められる」とのべています。
若い人が多い請負労働者の現状について、勤務を継続しても賃金が上がらず、社会・労働保険の未加入者が多いなどの問題をあげています。
また、「格差拡大」について、若年層での非正規労働者の賃金格差と成果主義賃金の影響が大きい三十から四十歳代の男性労働者で賃金格差が拡大傾向にあることは認めています。しかし、世帯間で見ると格差拡大は認められないなどとしています。
同白書は、これらへの政策として、(1)公正な処遇が確保される労働環境の整備(2)格差の固定化を招かないための職業能力開発の充実(3)自立した職業生活を営むための若年者への社会的支援―が必要だとしています。
解説
規制緩和に反省なし
二〇〇六年の労働経済白書は、格差問題の議論の高まりのなか、その原因となる非正規雇用の問題を分析しました。
白書は、景気回復が続くもとでも、非正規雇用が拡大している事実と、その活用が企業の「コスト削減」をするためのものであることは認めます。
しかし、非正規雇用をうみだしてきた「構造改革」路線による労働法制の規制緩和への反省がありません。そのため、非正規雇用が今後も拡大するという見通しのもと、その対策ももっぱら、若年層の能力開発による就業支援にとどまり、企業に雇用の責任を正面から問う視点は見られません。
これらの問題の解決には、景気後退期に身勝手な「採用抑制」で若年層の失業者や非正規雇用を生み出してきた大企業の責任を問うことや規制の強化が不可欠です。(吉川方人)
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