2006年8月9日(水)「しんぶん赤旗」
印米核技術協定
インド自主外交が覆される?
米議会が法案に“脅し”条項
今年三月に米国と結んだ核技術協定はインドの自主外交を根底から覆すのではないか―。同協定についての審議が米議会ですすむにつれ、インド側にはこんな懸念が強まっています。
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同協定は、ウランなどの核燃料や原子炉技術を米国からインドに輸出することを目的としたものです。インドは核不拡散条約(NPT)に加盟せず、独自に開発を進め、一九九八年に核兵器の保有を宣言しました。
米国の原子力法は、NPT非加盟国への核燃料や技術の提供を禁止しており、インドへの輸出には法改定が不可欠です。米下院本会議は七月二十六日、輸出禁止対象からインドを除外する法案を可決、現在は上院が審議を続けています。
米の戦略的利益
ところが下院を通過した法案には、「核兵器を含む大量破壊兵器の取得努力を行うイランに対して、それを思いとどまらせ、孤立させ、必要なら制裁、封じ込める米国の努力にインドを完全かつ積極的に参加させるよう保証すること」という条項があります。
武力行使を含む対イラン強硬政策にインドが同調しないのなら、核技術協力をしてはならない、という縛りを政府にかけたもので、インドからみれば“脅し”条項です。
米上院外交委員会での審議でルーガー議員は、「インドとの関係改善により、すでに米国は戦略的利益を得ている。インド政府は伝統的外交政策を調整し、国際問題において建設的役割を担っている」と、法改定賛成を主張しました。
「戦略的利益」として同議員は、インドが国際原子力機関(IAEA)理事国として、イラン核問題を国連安保理に付託することに賛成したことを挙げました。
インドは伝統的に非同盟・自主独立外交を展開してきた国です。この種の問題では、従来なら反対か棄権するというのがインド外交でした。
左翼政党が批判
インド共産党(マルクス主義)など左翼政党はいっせいに、「米国の外交政策にインドを縛り付ける試みは受け入れられない」と強く批判。シン首相に国会での徹底質疑を要求しました。
野党第一党で前政権党のインド人民党も、事実上、シン政権への信任投票となる「協定」への賛否を問う国会決議の採決を求めています。
マスコミからも「議論の時 国会は核協定で議論すべし」(八月五日付タイムズ・オブ・インディア社説)という声もでています。
インド政府は慢性的電力不足を解消するため、原発建設に力を入れています。米国から核燃料や技術が提供されるか否かは、今後の経済発展をも左右しかねません。
シン首相はいまのところ、国会での質疑から逃げています。「下手なことを言って米上院審議に影響しては困る。自主独立外交をやめて米国に同調するともいえない。ジレンマだ」と与党関係者も頭を抱えています。(ニューデリー=豊田栄光 写真も)