2006年7月29日(土)「しんぶん赤旗」

主張

WTO農業交渉

食料主権を保障するルールを


 貿易のいっそうの自由化をめざす世界貿易機関(WTO)の交渉(ドーハ・ラウンド)は、主要国・地域の閣僚会合が決裂したことで数年間の凍結が必至といわれます。

 おもな要因となったのは農業分野での対立です。各国の条件の違いを無視して農業に全面的な自由化を迫る、そのやり方そのものに無理があることを示しています。

自由貿易万能論に根源

 農業交渉は輸出国や輸入国、先進国・途上国の利害が複雑に絡み合っています。難航の背景にはWTO体制下での世界の農業や食料をめぐる深刻な矛盾の広がりがあります。

 WTO発足後十年、アメリカなど輸出大国と多国籍企業が大きな利益を得る一方、輸入国や途上国は深刻な打撃を受けました。輸出大国を含め中小農民は窮地に陥り、途上国の多くで食料自給率が低下しました。輸出向けの低コスト・工業的農業が拡大し、食の安全や環境は後回しにされています。農業をめぐるこうした矛盾は国連機関などでも、相次いで指摘されています。

 日本でも、コメを含めて農産物輸入が急増し、農業と農家が深刻な打撃を受け、食料自給率がいっそう低下しています。農業を自由貿易万能論にゆだねることの弊害はもはやあきらかです。WTOで犠牲を強いられてきた途上国が結束して不平等に抗議し、各国の農民や消費者なども「自由化ノー」に立ち上がりました。先進国でも、家族農業や食の安全を守れという運動が広がり、自由化推進を抑える力となってきました。

 こうした事情に加えて、アメリカ政府の横暴な姿勢も、交渉決裂の重要な要因です。アメリカは農産物関税の“大胆”な引き下げを各国に求めました。日本にとってはコメをはじめ主要な農産物の生産が壊滅しかねない要求です。その一方、アメリカは生産コストを大幅に下回るダンピング輸出を可能にする農業補助金の温存に固執しました。世界の農産物市場をゆがめていると各国から厳しい批判を受け、削減が迫られていたのを拒否したのです。他国の農業の存続など眼中になく、自国の権益にはしがみつく身勝手な態度を世界が受け入れないのは当然です。

 今回の交渉凍結という事態は、アメリカなど先進大国の横暴・勝手が従来のように通らなくなっていることを示すものでもあります。

 日本政府はアメリカの極端な自由化要求は拒否し、「多様な農業の共存」を訴えてきましたが、輸出国次第では譲歩する可能性も示唆していました。それを前提として国内の農政「改革」も推進してきました。しかし政府のいう「多様な農業の共存」は貿易拡大最優先のWTOの枠組みでは不可能です。それを真に保障するのは、各国の条件に応じて食料・農業政策を自主的に決定できる権利=食料主権の確立しかありません。

主権確立は世界の流れ

 食料主権確立の考え方は、WTOに抗議する世界の人びとのたたかいの中で広がり、国連の人権委員会でも圧倒的多数で採択されるなど、世界的な流れになりつつあります。

 二十一世紀の世界は、人口の増加や地球環境の制約から食料需給ひっ迫の懸念が指摘されており、各国の条件を踏まえた持続可能な農業生産の発展が不可欠です。貿易ルールもそれにふさわしいものにすべきです。交渉が凍結されるこの機会に農業協定をしっかりと検証し、食料主権を保障する貿易ルールを確立するため、各国政府・国民が力を合わせることが求められています。


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