2006年7月25日(火)「しんぶん赤旗」
陸自帰国に民間機
イラク部隊チャーター便
“国際条約違反だ” 航空連など申し入れ
イラク特措法にもとづく自衛隊のイラク派遣にかんし、クウェートからの陸上自衛隊員の帰国に民間の日航機をチャーター便として利用していたことを示す内部文書を本紙が入手しました。防衛庁、日航側は隊員の安全を理由に秘密裏で進めてきました。航空労組連絡会、日本乗員組合連絡会議、航空安全推進連絡会議は二十四日、「民間機の軍事利用を抑制する国際民間航空条約に違反する行為だ」として、防衛庁、国土交通省、定期航空協会に緊急の申し入れを行いました。
入手した内部文書によると、防衛施設庁が近畿日本ツーリストを介して日航機をチャーターしていました。チャーター便はクウェート―シンガポール―羽田ルートをとり、計三便で帰国する計画となっています。すでに、第一便百七十二人は迷彩服を着用して十九日にクウェートを出発し、翌二十日に帰国。第二便は二十三日に着きました。第三便は二十五日着の予定です。
防衛庁は自衛隊員を安全に帰国させるとして、イラク、クウェートからの撤収だけでなく、使用するチャーター便の民間企業名、羽田までの輸送状況、羽田での対応に至るまで秘密にする報道規制も行っています。
この日、緊急に申し入れを行った航空連の役員は「防衛庁が輸送の詳細を明らかにしないのは自衛隊員の安全のためというが、国際的に民間機を使えば国の飛行機になり、敵対勢力から攻撃される可能性のあることを国自身が認識しているからだ。政府専用機を利用すればいいのに民間機を利用するのは、軍事利用を繰り返すことによって既成事実化し、有事の際の利用に結び付けていくためだ」と語っています。
日本航空広報部は本紙の取材に対し、事実関係を調べてみる、と答えました。
国際民間航空条約 第三条は「軍、税関及び警察の業務に用いる航空機は、国の航空機とみなし、この条約は国の航空機には適用しない」とし、同第四条(民間航空の濫用)は「各締結国は、この条約と両立しない目的のために民間航空を使用しないことに同意する」としています。
解説
有事の際の既成事実化狙う
防衛庁がイラク・サマワに派遣していた陸上自衛隊の部隊の帰国に、政府専用機ではなく民間の日航機を使用したのは、有事の際に民間機を最大限利用するという周到な計画にもとづいています。
一九九九年の周辺事態法が成立して以降、防衛庁は民間機への迷彩服着用による搭乗やチャーター便、米軍輸送資格取得要請など、民間航空機の軍事利用を執拗(しつよう)に繰り返して既成事実化をはかってきました。
二〇〇四年に起きたインドネシア・スマトラ島沖の地震の人道支援で自衛隊が派遣された際には、迷彩服で日航チャーター便に搭乗した自衛隊部隊は、アルコールが出される夕食時には私服に着替えて食事したといいます。
作戦中に制服のままアルコール類を飲むわけにいかず、規定に沿って着替えています。ならば、はじめから私服で搭乗すれば、わざわざ着替えることもないわけですが、逆に、そこに迷彩服で搭乗する意味があったと証明するできごとでした。
国内の演習で民間機を利用してきた経過を見ると、最初は私服でチャーター便、次に一般乗客と混載で利用。さらに迷彩服で一般乗客と混載で搭乗、そして迷彩服によるチャーター便など、順を踏んで利用しています。
イラク派遣も行きは政府専用機でしたが、帰国の際は民間チャーター便となりました。今後は人員輸送だけでなく、武器、弾薬、小火器類の同時輸送が課題となってくるでしょう。
政府、防衛庁は自衛隊のイラク派遣を「人道支援」としています。しかし、実際は国際的に見れば米国の呼びかけに応じた多国籍軍への参加であり、今回の輸送は日本の民間機が多国籍軍をチャーター便で運んだことになります。敵対勢力から見れば、これは軍隊の移動であり、能力と明確な意図があれば、その航空機を攻撃することはあり得ました。
パイロットなど航空労働者が民間機の軍事利用に反対するのは、テロやハイジャックの危険性を高め、旅客と乗員のいのちを脅かす恐れがあるためです。
国際民間航空条約が、国の飛行機と民間機を厳密に区別しているのは、二度にわたる世界大戦の教訓を生かしているからです。各国も条約を順守しています。
防衛庁や日航が国際民間航空条約を熟知していながら、「人道支援」などさまざまな口実を設けてみずから破っているところに事態の重大さがあります。(米田憲司)