2006年7月25日(火)「しんぶん赤旗」
2011年アナログTV停止
未解決問題大きく
テレビの地上デジタル(地デジ)化は高画質、高音質、データ放送や双方向放送などテレビの可能性を大きく開くものになります。しかしアナログ停止には、百パーセント電波が届くこと、百パーセント受信機器が行き渡ることが必要条件です。
低所得者が情報弱者に
総務省や放送事業者でつくる地上デジタル推進全国会議は図のような普及ロードマップを発表しています。それによってもまだ九千万台の普及が必要です。残りは五年。すべての世帯に地デジテレビが普及するのでしょうか。
現在、地デジテレビは1インチ一万円と言われ30型だと三十万円で高額の買い物です。五年後までには価格も下がり、小型のものなら数万円台が出る見通しもあります。
JEITA(電子情報技術産業協会)広報担当の立川明さんは「価格帯はメーカーが決められるものではありません。やってみなければわからない。二〇〇八年ごろからは大手メーカー以外の量販店などが中国で製造するなどの動きが出てくるかもしれない」といいます。
地デジチューナー(安いもので二万円程度、将来は一万円を割る可能性も)を外付けしてアナログテレビで見ることもできますが、高画質では見られません。
アンテナはどうでしょうか。地デジが使うのはUHFアンテナです。現在ついているものは基本的には使えますが、電波の来る方向へ向きを調整することが必要です。電気屋さんに頼むことになるでしょう。
都内の電気店によれば「二万円が相場」とのことです。UHFアンテナの無い人は工事費を含めると五万円から十万円かかります。さらに家で複数のテレビを見るためのブースター(増幅器)もデジタル対応に取りかえる必要があります。アンテナ関連だけでも十万円以上かかる場合もあります。
生活保護世帯や非課税の高齢者世帯、六百五十万世帯も負担は強いられます。多くの情報弱者を出す恐れがあります。
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電波は100%届かぬ恐れ
今年十二月にはすべての都道府県で地デジ放送が始まります。しかし、すべての世帯に電波を届けるには高いハードルがあります。
「地上デジタル推進全国会議」の第六次行動計画(四月の改訂版)でも百パーセント電波を届けることは困難な状況であることが明らかになりました。とくに民放では必要な中継局が95%にとどまり、2―3%の世帯が取り残されることになります。この行動計画は、とくに地方民放局の大きな努力の上に策定されたものです。
日本民間放送連盟の竹内淳デジタル推進部長は「地方局の平均売上が四十億円ですが、デジタル化で今後五年で四十億円の資金が必要です。努力も限界ですね」と言います。多くの地方局が赤字確実の状況です。民放労連北海道地連委員長でHBC北海道放送の野津孝弘さんも言います。「デジタル化でどう生き残るか見えてこない。二〇一一年に間に合わない可能性も出てきた」
残される世帯が2%としても九十六万世帯に及びます。百パーセントカバーのためにインターネットを使った再送信やCS放送での送信など多くの案が検討されていますがまだ決定打はありません。
NHK放送文化研究所の鈴木祐司さんは「中継局設置よりも費用の安いギャップフィラー(簡易送信施設)の議論があるが、今は整備できるかどうか決まっていない」と言います。
民放連の広瀬道貞会長は七月二十日の会見で「残り2%の問題への対応で政府も具体的な施策を提示していただければいい」と税金投入を求めました。
強制的な停波 共産党は反対
二〇一一年アナログ停波を決めたのは二〇〇一年の電波法改定でした。日本共産党は「テレビを強制的に買い替えさせることになる」「二〇一一年までに、アナログ放送がカバーしてきた地域をデジタル放送でカバーすることは難しい」として修正案を出し、原案には反対しました。修正案は、アナログ停止時期の決め方を「これまで政府が公約してきたカバー率や普及率の達成を条件とする」とし、達成できなかったときは「停止時期を見直す」ことを求めていました。しかし、自民、公明、保守、民主、自由、社民が政府案に賛成し成立。反対したのは日本共産党だけでした。
デジタル移行の論議が始まった、一九九九年四月の衆院逓信委員会で日本共産党の矢島恒夫議員はアナログ停止を強制すべきではないとしたうえで停止時期をただしました。当時の野田聖子郵政相は「(デジタルテレビの)85%普及によってアナログ放送を終了するというものでなく、その時点になって具体的に終了時期を決めるというものである」と答弁しました。〇一年改定は、こうした大臣答弁をも無視して強行されたのです。
日本共産党は最近も、テレビの買い替えで、生活保護世帯などへの補助を要求、また、アナログテレビでもチューナーをつければ視聴可能であると周知徹底させること、など国民の立場から地デジ問題を追及しています。
視聴者理解へ具体的情報を
NHKと民放は今日から地デジを知らせるテレビスポットを放送します。草なぎ剛さんが登場。「ずーっと見てきたテレビ放送が五年後の二〇一一年七月に地デジに変わるんです」と話しかけ、「二〇一一年七月二十四日までに現在のアナログ放送は終了します」というテロップが流れます。しかしここから、「アナログテレビが見えなくなる」ということはわかりません。
主婦連合会の河村真紀子さんは「総務省やD―Pa(地上デジタル放送推進協会)は、見られなくなる、ということは、実はあまり言いたくない。消費者が知りたいのは、テレビの値段、アンテナは、どうしたらいい、など具体的なことなのです。総務省はポジティブ・キャンペーンからネガティブ・キャンペーンに転換するべきです」といいます。国民的議論が無いまま突っ走ってきた地上デジタル放送。総務省などは都合の悪いことも含めて視聴者の理解を求めることが必要です。