2006年7月23日(日)「しんぶん赤旗」
沖縄から移転計画 米海兵隊の新拠点グアムルポ
ここに日本の税金7000億円
米軍住宅は1戸8000万円
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七月二十一日。年間百万人の日本人が訪れるグアムは「解放記念日」のパレードでにぎわっていました。一九四四年のこの日、グアムを占領していた旧日本軍を撃破した米海兵隊が、今度は日本政府の支出でグアムに駐留しようとしています。在日米軍再編による在沖縄海兵隊のグアム移転計画で、日本政府の支出によって建設される米軍住宅は、大豪邸級の一戸八千万円に達します。日本発の「軍需」を待つグアムを訪ねました。(記事・竹下岳、写真・片桐資喜)
グアム北部の西海岸沿いに位置する米海軍通信基地、通称「フィネガヤン」。在沖縄海兵隊の移転候補地です。
道路沿いに数十棟の施設と大小のレーダーが点在しますが、大部分は空き地です。広大な未開拓の密林地帯も含まれています。その南には「フィネガヤンサウス」と呼ばれる米海軍住宅が連なっています。
米国防総省によると、通信基地約千二百ヘクタールの敷地に兵力はわずか四十人。日米両政府は、ここに沖縄の第三海兵遠征軍司令部などの拠点や住宅を建設しようとしています。
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ところが、その住宅建設費は一戸あたり八千万円(約七十万ドル)。五月の参院決算委員会で日本共産党の井上哲士議員が暴露し、額賀福志郎防衛庁長官も認めました。
日本国内の米軍住宅は一戸あたり三千万円程度です。グアムの住宅事情を、複数の不動産業者に聞いてみました。
「新築の場合、平均的な住宅(寝室三部屋)で二十万ドル程度」というのが共通した答えです。米軍住宅は一部の高級幹部住宅を除き、寝室二―三部屋が標準です。
七十万ドルで、どんな住宅ができるのか。リゾート地帯に隣接する高級住宅地を歩いてみました。寝室が五―六部屋以上の大邸宅が並んでいます。不動産業者は、「このクラスで五十万ドルから百万ドル」といいます。七十万ドルというのは、最高級クラスの価格です。これが日本国民の税金で賄われるのです。
中古だと、もっと値は下がります。新聞広告を見ると、「米海軍基地から十五分。四寝室、全室エアコン完備、プール付き」で、価格は十八万五千ドルでした。
額賀長官は井上議員の質問に、「資材や労働力を外から持ってくるので割高になる」と弁明していました。しかし、グアムの基地建設計画(マスタープラン)を取りまとめている米太平洋軍のリーフ副司令官は「どの程度の労働力が必要になるのかなど、詳細について議論するのはまだ早い」と一蹴(いっしゅう)します。
米軍自身、まだ詳細を詰めていないにもかかわらず、米軍の言い値で「どんぶり勘定」をしているのが実態なのです。
投資への期待、犯罪への不安
要さいの島 思い交錯
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高台から一望すると、南太平洋屈指のリゾート地・グアムのもう一つの姿が見えてきます。
アンテナ林立
北部の断がい絶壁の上に広がる広大な台地を、米空軍の出撃拠点・アンダーセン空軍基地が占めています。同基地につながる密林地帯には、さまざまな形のアンテナが林立しています。
観光地の真上を、B2ステルス爆撃機が飛んでいました。面積の約三割を米軍基地が占め、島全体が軍事要さいの様相です。
グアムの東海岸沿いの密林地帯を車で走っていると、人気のない町を目にしました。ここが海兵隊の都市型訓練施設「アンダーセンサウス」です。公道に接しており、フェンスもありません。
もともと空軍住宅でしたが、ソ連崩壊後の部隊削減に伴い、廃虚と化しました。中は雑草がのび、荒れ果てています。しかし、広大な敷地に三百六十戸の空き家が残されており、都市型戦闘訓練には最適です。
二〇〇二年以降、沖縄やハワイの海兵隊部隊の訓練場となり、〇四年には陸上自衛隊も海兵隊との共同演習を行っています。
8年後は3倍
「われわれは全面的に海兵隊移転計画を支援する」。グマタオタオ・グアム州知事報道官はそう断言しました。
ブッシュ米政権は、地球規模の先制攻撃戦争の拠点として、沖縄の負担軽減とはまったく無縁の海兵隊、空・海軍を一体にしたグアム増強計画を進めています。現在、人口約十七万人に対して米兵は六千六百人ですが、八年後には三倍近くに達すると予測されています。
グアム州は税収増を期待し、人口増加に伴う約二十六億ドルの公共事業計画も示しています。グマタオタオ報道官は、「八月の第二週には(米軍の)マスタープランが提示されるだろう」といいます。
グアム建設協会のマルチネス専務理事も「業界にとって、過去最大規模の挑戦だ」とのべます。同理事によると、グアムの基地整備費用での過去最高額は約二十億ドル。今回はその数倍の百億―百五十億ドルに達します。グアムの建設業界は収入の75%を軍関係に依存しています。
一方、不安の声も聞こえてきます。海兵隊の移転候補地を抱えるデデド地区のサバラス区長は十日から五日間、沖縄を視察しました。
海兵隊の移転については、「インフラ整備や税収増も期待できるので、積極的に受けとめたい」といいつつ、犯罪増加を懸念します。「海兵隊が、沖縄で数多くの犯罪を起こしてきたことを聞きました。今後、学校で、子どもたちに軍との接し方を教えていく必要があります」
タクシー運転手のオーリイさんは、アンダーセン空軍基地の飛行ルート直下で暮らします。「毎日毎日、爆音で苦しんでいる。六月には米軍と自衛隊の共同演習(コープノース)があった。夜中まで飛んでいたよ」
オーリイさんはフィリピンからの移民です。フィリピンで米兵の犯罪がしばしば問題になり、グアムでも米兵によるレイプ事件が発生しています。「これ以上、軍隊はいらない。海兵隊が増えれば、犯罪が増えるだけだ」
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海兵隊のグアム移転 日米両政府は五月、在日米軍再編「最終報告」で、沖縄の海兵隊八千人とその家族九千人をグアムに移転するとし、その総額約百三億ドル(約一兆二千億円)のうち、約六十一億ドル(約七千百億円)を日本側が負担することで合意。日本側の費用は(1)司令部庁舎(2)住宅(三千五百戸以上)(3)基地内インフラ(電力、水道)―などに充てられます。二〇〇八年から移転を開始し、一四年に完了させる狙いです。他国の軍事基地の費用を負担するのは歴史的にも国際的にも例がありません。