2006年7月22日(土)「しんぶん赤旗」
「不登校半減3年計画」
数値化で強制 危ぶむ声
“わが子が学校から除外される”
新潟市
教育基本法を改悪し、教育への国の介入の歯止めをなくして、政府はどんな教育をおこなおうというのでしょうか。改悪案で明記されている「教育振興基本計画」では、学力テストで子どもを競争に追いたて、いじめや校内暴力の「五年間で半減」、不登校の「大幅減少」をめざそうとしています。一見、もっともらしいとりくみも、政府が数値を決め、その達成をめざすことで教育現場に何をもたらすのか。「教育振興基本計画」の先取りともいえる、不登校の「三年間で半減」めざすとりくみを始めた新潟市では――。
市教育委員会は四月から、「不登校未然防止プロジェクト」をスタートさせました。〇八年度までの三年間に、不登校の児童生徒を半減させることを目標に掲げています。
内容は(1)各小中学校は月三日以上欠席した児童・生徒の名前、欠席理由などを書いた欠席管理状況表や月別一覧表を作り、市教委へ毎月提出する(2)各小学校では、不登校傾向のある小学六年生を選び、欠席理由や児童・親の登校への意欲、学校生活の様子、生育歴など約二十項目に及ぶ記入項目がある個人シートを作る(モデル校区の個人シートは、外部の専門家のコメントをつけてもどす)(3)同じ学区内の小学校(百十四校)、中学校(五十八校)で年三回以上の情報交換会を行う―などというものです。
市教委によると、市内の不登校の児童生徒の発生率は全国平均、県平均をそれぞれ上回るなど、小中学校とも高い状況が続いています。学校指導課では「中学校入学後に不登校が急増しているという『中一ギャップ』を解消し、新たな発生を防ぐことが不登校減少につながります。学校の働きかけで六割は防げます。不登校の予防に力点をおいた事業」と説明します。
市教委が小中学校の不登校問題の担当教師や管理職ら約三百五十人を集めた説明会を開いたのは五月十一日。参加した教師からは、「三年で半減」という数値化したやり方や親の声をきかない進め方、個人の情報を親の承諾なしに外部の人の目にさらすことなどに、疑問や不満の声があがったといいます。
不登校傾向の児童の個人シートを作ったという小学校教師は「不登校児の問題まで、数値で表して教師にハッパをかける。これでは、教育のとりくみとはいえないのではないでしょうか」と一方的なすすめ方を批判。中学校の教師は「個人シートには、教師の名前も書かなければならない。来年度から教員評価もおこなわれるので、不登校の生徒がいるクラスを引き受ける先生がいなくなるのでは」と心配しています。
今年度から始めるにあたって市教委は、学校を欠席しがちな子をもつ親などや市民に向けた説明会を開いたり、ホームページで知らせることは一切していません。「親の意見を聞くべきだ」という声は高まっています。
不登校の中学生をもつ母親は「私たちのような親に何の説明もないのはどういうことでしょう」と疑問を投げかけます。「『半減めざす』というと不登校の子どもが『悪く』、『除外する』と言っているように、私には聞こえてなりません」
小中学校では、学力テストが一年間で二―三回、体力テストも行われます。母親は「子どもたちは、成績だけでなく体力まで評価されるなど、すべてが評価、評価…。不登校はどの子にも起こりうると思います。つまずいても大丈夫、のびのびしていいのよ、といってくださったら、子どもも親もどんなに救われるでしょう。数値ではなく、どうしたら学校へ行けるようになるのか、親、先生・学校が一緒になってとりくむことを目標にしてほしい」と訴えます。
教基法改悪の先取り
市内の中学校教師で、新潟市教職員組合民主教育研究所所長の西伸之さんの話 不登校問題にとりくむことはいいことです。しかし、「半減」を目標とすれば、子どもの実態や願いとかけ離れた登校刺激や登校強制が行われ、子どもや親を追いつめていくのではないかと心配です。不登校を減らせない教師は「指導力不足」のレッテルを張られることになるでしょう。
子どもと親の立場に立っての「ていねいな対応」こそ目標にすべきです。そのことは教育基本法の精神であり、子どもも親も求めていることなのです。個人シートは、プライバシーにかかわる問題が多く、個人情報保護の侵害にあたるのではないでしょうか。
教育基本法を改悪し、政府が新しくつくろうとしている「教育振興基本計画」は、教育内容を詳しく決め、国の言う通りにやりなさいというものです。親や教師の願いに耳をかさず、一方的にとりくみを強制する新潟市の事業は、その先取りともいえます。この事業を白紙撤回し、教師が意欲をもってとりくめる施策を講ずるべきです。