2006年7月19日(水)「しんぶん赤旗」
いま地方で
お産ができない
人口8万人の管内 産婦人科ゼロの危機
北海道・浦河町
全国で産婦人科の医師不足が深刻な問題になっています。北海道でも医師を確保できずに休診する病院が各地で生まれ、道内百八十市町村のうち行政区内でお産ができるのは三十七市町のみです(本紙調べ)。医師確保に奮闘している浦河(うらかわ)町を取材しました。(北海道・岡田かずさ)
町ぐるみで運動 なんとか存続
国が対策してほしい
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「町から産婦人科がなくなる」。北海道浦河町役場に衝撃が走ったのは今年の四月。唯一の総合病院として町民の命の守り手になっている浦河赤十字病院の産婦人科は、一年に二百人の赤ちゃんを誕生させています。ところが同病院に医師を派遣していた北海道大学の医局が、大学の医師不足を補うために医師の撤退を申し出ました。大学病院や道は対応策として、日高管内と隣の胆振管内の中心都市である苫小牧市に医師を集約する方針を打ち出しました。
播磨秀三助役は「とにかくびっくりした。まさか産婦人科がなくなるなんて。妊婦にとっても女性にとっても大変な出来事だと思った」と話します。
列車で3時間
浦河町を含む日高管内は七町あり、八万三千人が暮らしています。管内の産婦人科がある病院は二つ。個人の産婦人科医院と浦河赤十字病院です。浦河、新ひだか、様似(さまに)、えりも、新冠(にいかっぷ)の五町は、七割以上の妊婦さんが二つの病院で出産しています。
個人病院の医師は高齢のため、やめたいと言っており、浦河赤十字病院がなくなると管内の産婦人科はなくなります。なくなれば、浦河から列車で三時間、車で二時間の苫小牧市の病院に行かざるをえません。
浦河赤十字病院の永島新一事務部長は、「産まれる前まで検診のために十五回ぐらい通わなくてはいけない。近くに病院があることが大事だと思っています。すでに医師が足りなくて無くなった科もありますが、産婦人科だけはなんとか残さなくてはと必死でした」と振りかえります。
病院は町に力を貸してほしいと頼み、日高管内の町村会として医師確保に尽力することを決めました。五月の末、四町の町長らが道庁と道医師会を訪ねました。応対した医師会役員は、町長たち自らが要望に来たことに驚き、「苫小牧市には、もっとも遠いえりも町から車で三時間もかかる。妊婦は通えない」との切実の訴えを真剣に聞きました。
関係者の努力がみのり、浦河赤十字病院は、苫小牧市の病院から産婦人科医師が交代で勤務する「出張医」という形で派遣されることになりました。しかし、身近な医療機関の存廃問題は町民に衝撃を与えました。
医療格差の表れ
産婦人科がなくなるとのうわさが町内に広まったときには、若い女性たちは「どこで産んだらいいのか」と心配しました。
三人目を産んだばかりの浦河町の女性(32)は、二人目と三人目を浦河で出産しました。太田さんは「ここ(赤十字病院)は近いからいいですよ。常に先生がいて緊急の時も対応してくれる。何が起こるかわからないから妊婦は不安なの」と話します。
保健師の佐々木孝子さんは「なくなると聞いてがくぜんとしました。産婦人科がなくなれば緊急の対応がとれず、助産所でも出産できなくなる」。
一週間前に子どもを産んだ女性(27)。「一番いいのは、同じ先生がみてくれて、近くにあること。小児科もちゃんとあってほしい」と赤ちゃんを見つめます。
産婦人科の継続が決まり、町民も病院関係者も喜びの声をあげています。その一方で、歯止めがかからない地域医療の崩壊と、過疎化への不安の声も多く聞きました。
小泉政治は医者と病床が多いと攻撃し、医療の地域格差を広げています。四月からの診療報酬の引き下げや高齢者の負担増、療養型ベッド数の削減などの医療改悪で社会保障制度が崩れてきています。
院内助産所を
全国で出生率がワースト3の北海道。播磨町助役は「国が少子化対策をやるといっているが、産婦人科が少なくなれば、出産も減り逆行していく。少子化対策としても医師の確保を国としてどうするのか考えてほしい」と訴えます。
日本共産党の荻野節子町議は、道の保健福祉部に対して医師の確保を要求してきました。真下紀子、大橋晃両道議も「産婦人科医師不足を補うための一つの方法として、院内助産所の設置を検討すべきだ」と対応を求めています。
北海道社会保障推進協議会の甲斐基男事務局長は、「子どもを産む問題は地域の将来にとってかかせない。住民が要求を掲げ、安心して産み育てられるまちづくりを目指し、行政とともに努力していくことが大事だ」と述べています。