2006年7月14日(金)「しんぶん赤旗」
主張
トヨタ欠陥放置
トップ企業の責任が問われる
車は一つ間違えば「走る凶器」ともなるだけに、自動車メーカーにとって安全の確保は最大の使命です。
ところが日本最大の自動車メーカー・トヨタ自動車で信じられないような欠陥放置事件が発覚しました。多目的レジャー車の部品の欠陥を知りながら八年間も放置していたというのです。トップ企業としての自覚と安全への意識が問われます。
「品質」の大後退
欠陥の中身は重大です。「リレーロッド」という舵(かじ)取り装置の部品が強度不足で、走行中に破損すればハンドルがきかなくなり、重大事故につながります。実際、二〇〇四年八月には、熊本県菊池市で五人が負傷する人身事故が起きました。
欠陥はモデルチェンジ後の一九八八年に生じ、九二年ごろからリレーロッドの不具合が相次いでいました。トヨタは遅くとも九六年には危険性が高いことを認識していながら、リコール(無料の回収・修理)などの処置をしていませんでした。
事件後、トヨタは「落ち度はなかった」などとするコメントを出しています。しかし、捜査当局の調べで、欠陥部品は社内基準の安全試験すらせずにつかわれていたこと、この欠陥を社内基準で最高の「Aランク」の重要故障としていたことも明らかになり、トヨタの「落ち度」はきわめて重大だったことが浮かび上がっています。
今回の事件では、リコールにかかわる部門の歴代三人の担当部長が業務上過失傷害容疑で書類送検されました。これが個人的な犯罪ではないことを示しています。欠陥の事実は担当の副社長や常務も把握していたとされ、会社そのものに安全軽視の体質があったといわざるをえません。今後の捜査で真相を徹底解明することが必要です。
トヨタのリコール台数は〇一年の六万台から〇四年百八十九万台、〇五年百八十八万台と二年連続百八十万台を突破、〇六年もすでに八十万台を超える激増ぶりです。系列部品メーカーの生産ラインでの死亡事故は二十件以上に急増しています。
トヨタは三年連続で一兆円を超える史上最高益を更新する好業績の半面、「トヨタはいったいどうなっているのか」との指摘も目立ちます。
トヨタは今年六月発足した新経営体制で、「品質」問題専任の専務を置く異例の人事を決めました。裏をかえせば、それだけ品質・安全対策が深刻になっているということです。
労働者の健康や人間性を破壊するトヨタの労務管理は、生産現場をゆがませ、技術の継承も困難にしています。「世界最強のものづくり集団」を自負したトヨタが、「トヨタ生産方式」そのものによって品質・安全管理に異変をきたしはじめていることは見逃せません。
安全軽視にメスを
〇二年を前後して、三菱自動車などのリコールに関する不正事案が相次いで発生しました。これと時を同じくしてトヨタでも同様の事態があったことは重大です。国土交通省は、国民の生命・安全にかかわる問題として厳正に処置すべきです。
小泉首相は、トヨタを「最も元気がよい企業」とほめそやし、トヨタ出身の奥田碩日本経団連前会長を、弱肉強食の新自由主義的「改革」をすすめるパートナーにしてきました。いまそのひずみが社会の各分野で現れています。
トヨタの問題は、トヨタだけの問題ではありません。「効率」優先、安全軽視の政治にこそメスを入れる必要があります。