2006年7月12日(水)「しんぶん赤旗」
中教審答申 教員免許の更新制
教師・研究者が懸念
自由な実践抑えられる
管理統制を強める
中央教育審議会が十一日の答申で打ち出した教員免許の更新制。現職教員も十年に一度三十時間の講習を受け、修了認定されなければ免許が失効し、職を失うことになります。現場の教師や教育研究者は、どう受けとめているのでしょうか。
東京都内の中学校教師(51)は「講習の中身がどういうものになるかまだ分からないが、時の政府の教育政策への忠実度が問われるものになるのではないか」と語ります。東京では「日の丸・君が代」の強制をはじめとして教育行政による現場への管理が強まっています。「講習を受けさえすれば更新されるといっても心理的圧迫感があり、創意工夫した教育をすることをいっそう自己規制してしまうかもしれない」
条件整備が先決
山口県の小学校教師(49)は「現場は非常に忙しくなっています。いったいいつ講習を受けろというのでしょうか」といいます。「現場ではさまざまな新しい課題が生じていますから、教師が学び続けること自体は必要です。しかし、研修にいきたいと思っても時間もお金も保障されず、自分のお金で休みをつぶしてやるしかないんです」
小学校に導入されはじめた英語教育のための研修も勤務時間外でなければ受けられない状態です。「今回出されているようなやり方では忙しくなるだけ。自分が必要とする研修を受ける時間と予算、学校の人的な体制など条件整備が先決だと思います」
必要性説明ない
教員養成問題に詳しい土屋基規・神戸大学名誉教授は「答申は、教員養成は『転換期』にあるとしていますが、十年、二十年先を見通した将来展望はなく、更新制先にありきという姿勢が強く出ています」と語ります。
中教審も二〇〇二年の答申では、更新制は「専門性向上には必ずしも有効な方策とは考えられない」としていました。
土屋さんは「更新制導入の理由として『社会的状況の変化に対応する』というだけで、必要性と合理性の説明はありません。現在の大学の教員養成課程は多くが担当教員が二人しかいないなど極めて貧困です。更新のための講習を大学などで行うといっても現実的な受け皿がない」と指摘。大学での教員養成の充実と現職教員の研修の条件整備をきちんとやることが必要だといいます。
身分が不安定に
教職員政策について研究している勝野正章・東京大学助教授は「専門性の向上や資質能力の刷新は必要ですが、今回の更新制がそれにつながるとは考えられません。教員の身分が不安定になることのマイナスのほうが大きい」と語ります。
教育は子どもと教師との人間的な交流のなかでおこなわれるもの。「簡単に身分が奪われてしまっては、教師が創意工夫を発揮して自由な教育実践をすることができません」と勝野さんはいいます。ILО・ユネスコの「教員の地位に関する勧告」(一九六六年)も身分保障は教員の利益にとって不可欠なだけでなく「教育の利益のためにも不可欠」としています。
これまで免許が失効するのは懲戒免職の場合などに限定されていました。今回の更新制では、講習の修了認定を受けなければ懲戒免職と同じ扱いになるというものです。
勝野さんは、答申は教員への管理統制を強める点で教育基本法改悪案と同じ流れだと指摘します。「更新講習の基本内容や修了要件は国が定めることになっています。教職課程に新設するという『教職実践演習』も国が内容を定めるものです。教育基本法『改正』案は現行法の『教員は、全体の奉仕者』という言葉を削っています。教師は子どもや保護者のほうを向いて教育をするのでなく、国にいわれたとおりの授業をやりなさいということにされかねません」