2006年7月9日(日)「しんぶん赤旗」

左派惜敗のメキシコ大統領選

中南米 変革の流れ実証

新自由主義の矛盾 沸点に


 二日投票のメキシコ大統領選は、与党の右派・国民行動党(PAN)フェリペ・カルデロン候補(元エネルギー相)が勝利を宣言したものの、中道左派・民主革命党(PRD)のロペス・オブラドール候補(前メキシコ市長)との差は0・58ポイント(約二十四万票)という大接戦でした。オブラドール陣営は不正疑惑があるとして選挙裁判所に異議申し立てをしています。その判断がどうなるにせよ、今回の選挙戦は、ラテンアメリカで強まる新自由主義反対の流れが米国の隣国メキシコにも急速に広がっていることを示しました。

 (メキシコ市=松島良尚)


 「騎手も馬も変えなければならない」。選挙戦でオブラドール氏がこう強調したのに対しカルデロン氏は「馬は変えてはならない」と主張しました。「馬」はフォックス現政権の政策、つまり新自由主義政策を指します。これが両候補の対立軸でした。

相手候補の中傷

 カルデロン氏がかかげた公約は、メキシコのかかえる諸問題を「民間活力で解決する」というものでした。雇用創出については「労働の柔軟性」、基幹産業である石油部門の活性化のためには一部民営化、公的医療の改善については薬品業界との「官民連携」で、といった具合です。

 オブラドール氏は、国が経済・社会分野で本来の役割を果たすべきだと主張。高齢者年金制度の確立や北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しによる食料主権の確立、公教育の再建などを訴えました。

 メキシコは一九八二年の債務危機に端を発して国際通貨基金(IMF)がおしつけた構造調整政策を受け入れ、民営化や金融自由化、補助金削減など新自由主義政策を推進してきました。そのもとで中小の生産分野が荒廃し、貧富の格差が広がりました。九四年発効のNAFTAがそれに拍車をかけてきました。

 国民は二〇〇〇年の前回大統領選で七十一年にわたった制度的革命党(PRI)政権に「ノー」をつきつけ、PANのフォックス現大統領を選出しました。PANはPRI以上に新自由主義政策に積極的ということをある程度承知しながらも、多くの人がPRIの政治腐敗、利権政治からの決別を切望した結果でした。

 そのときと比べ今回は、国民が両候補の政策をみすえ、国の進路を定めようという選挙でした。

 オブラドール氏に託された約千四百七十万票(35・31%)は、一歩届かなかったとはいえ、同国においても新自由主義と国民生活の矛盾が沸騰点に達していることを示しました。民主的変革をめざす中南米の流れの勢いをあらためて実証するものです。

 カルデロン勝利の背景の一つとして、選挙戦で目立った相手候補への中傷、「汚い戦争」があげられます。

 カルデロン陣営は、オブラドール氏は「メキシコにとって危険だ」、同氏が大統領になれば国家財政がくずれ、投資も呼び込めないなどとする宣伝をテレビスポットで大量に流しました。オブラドール陣営も、カルデロン氏のおいが経営する企業の不正疑惑などをあおりました。

どう対応するか

 中央選管は中傷宣伝の中止をたびたび勧告しましたが、結果として、資金的に圧倒的に有利なカルデロン陣営の大量宣伝が同氏を優勢に導いたといわれます。

 カルデロン氏は選挙後、連立政権樹立の意向を強く示しています。

 国会議員選挙ではPAN、PRDとも躍進し、第一党のPANは四十数%の議席を占める見通しです。大敗したPRIは選挙中から分裂的傾向を示しており、同党の一部や小政党が連立に応じる可能性は十分あります。

 国会第二党の現政権は他党を十分とりこめず、労働法改悪や付加価値税(消費税)の非課税品目撤廃などに失敗しましたが、次期政権には現在と異なる条件が生まれます。今後の焦点は、選挙をつうじて高まった新自由主義反対の世論に次期政権がどう対応するかに移ります。


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