2006年7月9日(日)「しんぶん赤旗」
焦点 論点
自民議員のNHK番組質問
放送ゆがめる不当な介入
先の通常国会で、自民党議員によるNHKへの政治介入発言が相次ぎました。質問に名を借りた放送への不当な介入に、研究者や市民から批判の声があがっています。
とりわけ問題になっているのは、六月十五日の参院総務委員会での自民党の柏村武昭議員の質問です。「NHKの国歌・国旗に対する公式な見解」を問いただしたいと、やり玉にあげたのが、東京都で起きている国旗・国歌をめぐる異様な強制問題をとりあげた昨年三月放送の「クローズアップ現代」でした。
この中で番組のキャスターが東京都の教育長になぜ強制をするのか、繰り返し質問したことをあげ、NHKには公共放送として国歌・国旗を「助長するような責務がある」のに、「偏見を持たせるような番組づくり」で「非常に偏った放送」だと非難しました。
しかし、こんな乱暴な議論は、公共放送本来のあり方からいっても成り立ちません。公共放送とは「営利を目的とせず、国家の統制からも自立して、国民全体の福祉のために行う放送」(『NHKのそこが知りたい』NHK広報局編)です。
戦前の日本放送協会は「電波・放送は政府のもの」で、戦争に国民を動員する国策宣伝機関と化しました。その反省の下に出発した戦後のNHKは、「政府から自立」したところに戦前との決定的な違いがありました。
戦前へと逆戻り
憲法二一条や放送法一条の二に表現の自由を明記し、放送法三条で放送番組編集の自由を定めたのも、政府の介入に歯止めをかけるためでした。
国営放送と公共放送を意図的に混同させ、NHKを政府や自民党の宣伝機関にしようという柏村議員の発言は、「市民の公共放送を再び戦前の国家の公共放送へと逆戻りさせるもの」(松田浩・元立命館大学教授)です。
しかも、「国旗・国歌」については、一九九九年の法制化当時、小渕首相が「内心にまで立ち入って強制しようとする趣旨のものではない」と明確に国会答弁しています。
柏村議員はその首相答弁も無視し、「もう一回チェックをするべきじゃないですか、現場の人間も全部」と職員の思想調査までNHKに迫ったのです。日の丸・君が代を踏み絵に「内心の自由」を踏みにじる、明白な違憲行為です。
NHK職員の思想・信条に対する乱暴な介入という点では、三月の参院総務委員会での同じ自民党の山本順三議員の質問も重大です。
山本議員は自民党幹部らによるETV番組改ざん事件の裁判で、政治介入を裏付ける証言をした永田浩三衛星放送局統括担当部長(当時)の人事上の処分をNHKに迫ったのでした。山本議員は、ETV番組に圧力をかけた「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」のメンバーでした。
撤回を申し入れ
政治権力を背景に、自分の意のままに番組内容を変更させた五年前のETV番組改ざん事件は、憲法や放送法に違反する「事前検閲」として、国民の批判を招き、政治とNHKの関係が厳しく問われました。
自民党はこうした国民の批判も無視して政治介入質問を繰り返しています。そこにはETV番組問題などできぜんとした態度のとれないNHKを徹底的に揺さぶり、巻き返しをはかろうという思惑が見え見えです。
不当な政治介入は放送をゆがめ、視聴者の「知る権利」を侵害すると、六月末、醍醐聰・東大教授や松田さんら研究者、ジャーナリスト、市民有志九十三人が、九百九十六名の賛同署名を携えて柏村議員に発言の撤回・訂正を申し入れました。
国会審議に名を借りた言論弾圧・政治介入に対する監視と批判の動きを広げることが重要です。
(テレビラジオ部 板倉三枝)