2006年7月9日(日)「しんぶん赤旗」

主張

じん肺訴訟判決

国は根絶へ真剣にとりくめ


 国が発注したトンネル工事で「じん肺」を発症した労働者が、国の責任を明確にすることを求めて訴えた全国トンネルじん肺根絶訴訟で、東京地裁が「健康確保と危険防止を怠った」と国の責任を認める初の判決を出しました。

 じん肺という深刻な労働災害に手をこまねいてきた国を厳しく断罪し、じん肺防止の施策の抜本的見直しと、被害の根絶に踏み出すことを国に強く促すものです。

いまも続く被害

 じん肺は世界最古で最大の職業病といわれます。大量の粉じんを長期にわたり吸い込むことで肺の組織が破壊され、呼吸困難になるもので、完治する治療法はありません。重くなれば横になって寝ることも風呂に入ることもできず、酸素吸入にすがって一生を過ごさなければならなくなります。患者にも、家族にも、たいへんな苦しみを強いる病気です。

 国を訴えていたのは「わたり坑夫」と呼ばれる出稼ぎのトンネル労働者の人たちです。国土の七割が山地の日本で、戦後の復興期から今日まで数多くのトンネル工事がおこなわれました。全国の工事現場を転々とし、出来高給と無権利状態に置かれながら、国策としてのトンネル工事を現場で支えたあげく、じん肺という重い健康被害を受けました。国を相手取った損害賠償請求訴訟は東京地裁のほか、全国の十地裁で争われています。

 じん肺は多量の粉じんを吸い込まない限りかかることのない病気で、国や企業がきちんとした粉じん防止対策をとれば確実に予防できます。ところが、じん肺法が制定された一九六〇年から四十五年を経た今日でも、毎年新たに千人前後の労働者が重度のじん肺と認定されている現状があります。

 厚生労働省の統計では七八年から二〇〇四年の間に、全産業で三万八千三百人余のじん肺患者が発生しています。そのうちトンネルじん肺患者は九千人余で全体の24%と重い比重を占めます。トンネル工事の発注者の大半は国で、工事はいまも多数おこなわれています。トンネルじん肺は過去の問題ではありません。被害を断ち切る施策の実施は、すぐれて今日的課題です。

 日本共産党は国会で、トンネル工事の発注者である国が拘束十一時間の坑内労働を前提に労働者を長時間粉じんにさらしていること、工事現場の粉じん濃度の測定さえまともにおこなわない実態を告発し、是正を強く求めてきました。

 原告は、国にトンネルじん肺根絶のための施策を確立させること、ゼネコン・業界の責任で裁判によらず被害を迅速に救済するシステムを創設することを求めています。適切な規制をおこなってこなかった国の行為を「違法」と認めた判決を重く受け止め、国は原告に謝罪し、その意をくむ対策をとることが必要です。

「なくせ」こそが願い

 「あやまれ、つぐなえ、なくせ じん肺」―トンネルじん肺訴訟で原告が掲げ続けたスローガンです。

 九七年以来のゼネコンを相手取った訴訟で相次ぐ勝利和解を勝ち取り「あやまれ」「つぐなえ」についてほぼ達成してきた原告が、あえて国との訴訟をたたかってきたのは、「なくせ」を実現するために、どうしても国による法整備が必要だからです。

 「お金ではない。この苦しみは私たちを最後にしてほしい」という原告の痛切な訴えを正面から受け止め、国は悲惨な被害を与えるじん肺の根絶に真剣に取り組むべきです。


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