2006年7月7日(金)「しんぶん赤旗」
労働者に何をもたらす
自律的労働時間制度
週四十時間など労働時間のルールを外し、いくら働いても残業代が支払われなくなる「自律的労働にふさわしい制度」の導入論議が厚生労働省内ですすめられています。導入論を労働者の実態から検証してみると―。
裁量がある?
「自律的労働」とは、職務や時間配分について自分の裁量があり、指示された業務を断る自由を持っている労働者の働き方だといいます。
しかし、そんな人はどこにいるのでしょうか。
労働者二千人のアンケート調査によると、長時間労働の理由は「そもそも所定内労働時間では片付かない仕事量だから」が61・3%で最も多く、「自分の仕事をきちんと仕上げたいから」(38・9%)を大きく上回っています。(労働政策研究報告書二十二号)
長時間労働は業務量の多さに原因があります。これを間接的に規制する役割を担っている労働時間の規制をなくせば、長時間労働がひどくなるだけです。
能力発揮のため?
自己実現や能力発揮を望む人が増えている。必要なときはまとまって働き、その代わりにまとめて休めるよう、時間にとらわれず働ける制度が必要だ、といいます。
それは現行法で十分にできます。深夜・長時間労働をもたらすなどの問題点がありますが、一日八時間をこえて働く「みなし労働時間制」や「変形労働時間制」があり、通常でも労使間の協定さえあればできます。
ただし、こうした制度には導入する要件や割増賃金の支払い義務が課せられています。時間規制を外すのは、こうした義務から逃れたいという経営者側の要求だけです。
成果ではかる?
仕事の成果と時間の長さは一致しないから、労働時間規制はやめるべきともいいます。
仮に、Aさんが八時間でできる仕事にBさんが十時間かかるとします。Bさんは二時間分の残業手当を得られるので不公平だというわけです。
成果ではかるというのなら、Aさんの八時間賃金とBさんの十時間賃金を同じに設定するか、Aさんを昇給・昇格で処遇すればすむ話です。にもかかわらず時間規制を外すのは、残業代を払いたくないという経営者の身勝手な動機だけです。所定内で働くのが原則であり、労働者の健康を守るためにも時間規制を外すことは認められません。
歯止めになる?
一定の年収や本人同意を要件にするので歯止めになる、といいます。
経営者から同意を求められても、断れるような力関係にある労働者はほとんどいません。
年収も、日本経団連は四百万円以上を対象者に求めています。いったん導入すれば、最初は年収要件が高くても、やがて引き下げられるのは目に見えています。そもそもいくら年収があっても健康を壊すような働き方を強いることは認めるべきではありません。
広がらない?
対象となるのは、「管理監督者に準ずる労働者」だからそんなに広がらないともいいます。
課長職と係長職をあわせると約百六十万人。チームリーダーなど広義の管理職は三百万人を超えるといわれ、労働者の二割におよぶとされます。
現行法で規制の対象外とされる「管理監督者」でさえ範囲が広げられ問題になっているのに、それが公然とできるようになりかねません。
アメリカでは、ハンバーガー店の副店長から作業所のチームリーダーまで対象が次々と拡大され問題になっています。約20%が労働時間の適用除外者とみられています。