2006年7月7日(金)「しんぶん赤旗」

原子力空母配備 米戦略上の意味は

米軍出撃拠点 強化狙う

国際問題研究者 新原昭治さんに聞く


 米軍再編が強行されるもと、神奈川県の米軍横須賀基地に原子力空母ジョージ・ワシントンが二年後に配備されようとしています。それは米国の軍事戦略上、どんな意味を持つのか。国際問題研究者の新原昭治さんに聞きました。(菅原厚)


 原子力空母は、戦争目的で稼働する「動く原子炉」であり、その実態は徹底した秘密主義のベールに覆われています。

 原子力推進艦船の危険性は、原水爆推進派からも指摘されています。米国で「水爆開発の父」といわれたエドワード・テラー博士は、原子力推進艦船が現役化してまもない一九六〇年代に、原子力艦船は危険なので、人口密集地の港に出入りするのは間違いだ、と警告しました。

 このように危険なものを横須賀基地に配備しようとするのはなぜか。これは米国の軍事戦略を抜きに語ることはできません。

 それは、イラク戦争のような、先制攻撃の戦争をいつでも実行できるように、日本を世界最大の米軍の出撃拠点としていっそう強化するためです。

 現在、世界的規模で「米軍再編」が進められていますが、なかでも海軍は、アジアを最重点にする戦力の再配備を計画しています。

 航空母艦や戦略原潜、攻撃型原潜のそれぞれの60%以上をアジア向けに太平洋に集中配備することが、今年二月に米国防総省が発表した「四年ごとの国防計画見直し」(QDR)という文書で明らかにされています。横須賀基地への原子力空母の母港化計画は、そのカナメをなすものです。

 最近、海軍制服組のトップで海軍戦略遂行の最高責任者のマレン海軍作戦部長が、新しい海洋戦略を早急に策定するとして、その重点を明らかにしました。

陸上を攻撃

 第一に、新海洋戦略は、ブッシュ政権の「長期戦争」戦略を支えるものでなくてはならないと強調しています。「長期戦争」とは、米政府首脳の公式言明によると数十年単位の戦争のことですから、恒常的な戦争体制をとるに等しいことです。

 第二に、過去の海軍は海上の戦争だけを考慮していればよかったが、「グローバリゼーション」がすすんだ現在では陸上の作戦に全面的にかかわらなければならない、と述べています。つまり、陸上に攻撃をしかけ、大陸の中にまで軍事的支配圏を広げることが海軍の中心目標だ、というものです。

 第三は、同盟国海軍、日本でいえば海上自衛隊との共同作戦体制を強めることです。

 こうした戦略のもとで、石油節約のため、原子力推進艦船をさらに重視する傾向もみえます。米政府機関全体の一日の石油消費量三十三万バレルのうち、90%を超す三十万バレルを米軍が使っているので、大型強襲揚陸艦などを原子力推進に切り替えたいもようです。

 現在進められている米軍再編は、二つの大きな狙いがあります。

 第一は、ブッシュ政権の「長期戦争」戦略にそって、米軍自身の戦争遂行能力を効率的に強めることです。

 第二は、同盟国の軍隊、とくに日本の自衛隊を米の世界戦略により深く組み込み、米軍とともに戦争できる体制をつくることです。

 原子力空母の横須賀母港化も、こうした動きと一体です。

 アフガニスタン戦争とイラク戦争で、首都圏の東京・横田基地も横須賀基地も重大な役割を果たしました。

 アフガン戦争では、大量の兵器や軍需物資を米国本土から、大西洋越えと太平洋越えの二つのルートで空輸しました。このうち、太平洋ルートは、米本土から横田基地にきて、そこからインド洋の赤道直下のディエゴガルシア島を経てアフガニスタンに入ったのです。

 横須賀からは空母キティホークが出港し、艦載機がアフガンを空爆する一方、米陸軍特殊部隊も乗せて、陸上戦闘に投入されました。これは、先に述べた、海軍が陸上戦闘に全面的にかかわるという新傾向をあらわしています。

 イラク戦争は、こうした在日基地の活用ぶりをさらに拡大しました。

 なぜアジアに最重点の矛先を向けた米軍再編強化が進んでいるのか。それは、ユーラシア大陸の心臓部を狙った米国の覇権主義戦略のためです。

支配広げる

 米国は、いまの軍事態勢を「反テロ」一色でぬりつぶして説明しますが、実は覇権主義の狙いが貫かれています。QDRは、「米国との協力を拒む国」への「影響力行使」を戦略目標にしています。米国と同盟しない国々を「敵」扱いし、圧倒的に強大な米軍事力を使い、ユーラシア大陸での実質的支配圏を拡大しようとしています。

 小泉内閣が陸上自衛隊をイラクから引き揚げる一方で、航空自衛隊のC130輸送機のイラク国内での米軍空輸作戦支援の任務を大幅に拡大することを決めたのも、この狙いに沿ったものです。

 神奈川のキャンプ座間では、ユーラシア大陸全域への迅速出撃作戦のための移動式司令部を、米ワシントン州フォートルイスから移す基地強化が計画されています。戦争を陣頭で指導するための指揮所がやってくるのです。

 こういう危険きわまりない動きを目前にして、これに反対し抗議する首都圏での運動を大きく発展させるため、ぜひ7・9首都圏大集会を成功させましょう。

 いまの米戦略は、核戦力のいっそう危険な展開をも特徴としており、核・通常両戦力の一体的運用を強調しています。核兵器使用に反対し核兵器廃絶のすみやかな実現を迫る原水爆禁止二〇〇六年世界大会の成功は、ますます重要な意味をもってきています。


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