2006年6月30日(金)「しんぶん赤旗」
首相の靖国参拝 米国で深まる懸念
元国防総省高官 アジア傷つけている
研究所所長 日米同盟にもマイナス
首相の靖国神社参拝は、米国のアジア政策にとっても深刻な影響を及ぼしている―小泉首相の最後の訪米を機に、米国の「知日派」をはじめとする要人が、日米軍事同盟を強化する立場から、相次いで懸念を表明しています。
「日本が遂行している政策がアジアで日本を傷つけていることに、われわれは甚大な、深い懸念を抱いている」―クリントン前政権時に国防副次官補(アジア・太平洋担当)を務め、米国の対日政策で大きな役割を果たしてきたカート・キャンベル氏は、二十七日にワシントンで開かれたシンクタンク・戦略国際研究センター(CSIS)の会合で語りました。
同氏は、「日本の外交政策は北東アジアで失敗を重ねてきた」と批判し、その要因として靖国問題があると指摘しました。
込み入った問題
同氏は、靖国問題が「込み入った問題だ」として日本政府に一定の理解を示しながらも、「この問題がアジアでうまくいっていないのは事実」だと発言。「日本側がどのように理屈をつけて説明しようとも(靖国問題は)日本を傷つけている」と述べました。
同氏は、「日本の指導者たちは、これを何とかして乗り越えなければならない」とし、日米関係で「最大の問題」となっていると強調しました。
キャンベル氏は、靖国問題の解決は日本に任せるべきだという見方をする人々が米国にいるが、「この問題が日本とアジア全体を傷つけているので、この問題を克服するよう日本に要請し始めるべきだ」と考えるグループもあると紹介。自分自身は後者に傾いており、米国は日本に対して「静かな対話」を始めるべきだと提言しました。
ジョンズ・ホプキンス大学ライシャワー東アジア研究所のケント・カルダー所長は、靖国問題で日本がアジアで「道義性」を低下させることが、米国にとっても損害を及ぼすと訴えています。
同氏は、日本が中国やイランに対して独自のパイプをもっていればアジアで指導性を発揮できるが、「それが道義性の喪失によって損なわれるようなことになれば、日米両国、日米同盟にとってもマイナスとなる」と指摘。
「今、イラク戦争で米国は予算も軍事力も中東に集中させている。そのとき、アジアに空白が生じた場合、誰がその空白を埋めるのか。日本に道義性がなければ、空白は中国が埋めるでしょう。それは日米同盟にとって不利に響く」と述べています。(『週刊東洋経済』七月一日号掲載のインタビュー)
元国防総省日本部長のポール・ジアラ氏も、「靖国問題が米国にとって重大な負担を課している」ことを力説しています。「米国が日本に対し、主要な政治的・軍事的同盟国として誓約しているために、日中間の論争に対して米国は利害関係をもっているとアジアではみなされている」と同氏は言います。(「ヘラルド朝日」六月二十四・二十五日付)
議場汚すことに
今回の小泉首相の訪米では、テネシー州のエルビス・プレスリーの邸宅を大統領専用機でブッシュ大統領とともに訪問することが話題となっています。その影に隠れているのが、米連邦議会での幻の小泉演説の問題です。
第二次世界大戦に従軍した、米下院外交委員会のヘンリー・ハイド委員長(共和党)は、ハスタート下院議長に対して四月二十六日付で書簡を送り、小泉首相が靖国神社参拝を続けることに懸念を示し、首相が望む米議会での演説を拒否すべきだと提言しました。
同議会は、フランクリン・ルーズベルト大統領が真珠湾攻撃直後に「屈辱の日」だと演説した場所であり、靖国参拝を繰り返す小泉首相に同じ場での演説を許せば、その議場を汚すことになるというのです。
自分も後継者も靖国を参拝しないと小泉氏が米議会で宣言すれば、問題は一挙に解決する―ジアラ氏は提言しました。しかし、それは実現しませんでした。小泉首相は訪米途上のカナダ・オタワで二十七日、靖国神社に「何回行こうが個人の自由だ」と発言。世界の各メディアは、この発言の詳報を直ちに流しました。
(坂口明)