2006年6月27日(火)「しんぶん赤旗」
難航するWTO農業交渉 (下)
食料主権の決着こそ
日本政府は、アメリカなど輸出国の要求を拒否し、「多様な農業の共存」を訴えています。しかし、中川農水相は「守るものは守り、譲るものは譲る」と繰り返しています。最近は「要求する側(輸出国)が先に譲らないと、要求される側(輸入国)は動けない」と輸出国次第では譲歩する可能性も示唆しています。
譲歩重ねるか
実際に政府は「交渉を動かすため」として、しばしば譲歩案を示してきました。最大の問題は、重要品目の低関税輸入枠を最高35%拡大すると提案したことです。日本の米にあてはめるとミニマムアクセス(最低輸入機会)を年間七十七万トンから百四万トンに増やすことを意味します。
世界の米在庫が三十二年ぶりの低水準を更新し、逆に国内では減反を拡大しているときに日本が米の輸入をさらに増やすのはまったく道理がありません。日本政府は自由貿易の推進の名のもとに米輸入の拡大を受け入れようとしているのです。
かつて日本政府は「米は自由化しない」という再三の言明を裏切った前科があります。加えて小泉内閣は「農業鎖国は続けられない」といい、「国境措置に過度に依存しない政策体系」への移行を宣言しています。
一方、非農産品やサービス分野では大企業の海外進出を容易にするために途上国などに自由化を迫っています。この政府が「交渉の前進」のために農業でさらに譲歩する危険性は大いにあると見なければなりません。
農業犠牲ノー
政府が掲げる「多様な農業の共存」は、自由貿易の拡大をめざすWTO交渉の枠組みでは不可能です。それを真に保障するのは、各国の条件に応じて食料・農業政策を自主的に決定できる権利=食料主権の確立です。
この考え方は、貿易拡大一辺倒のWTOに抗議する世界の民衆のたたかいのなかで広がりました。昨年の香港閣僚会議を包囲する行動でも食料主権の言葉が満ちあふれるなど、WTOに対置する共通のスローガンとして定着してきました。
日本の全中(全国農協中央会)をはじめ先進国と途上国の五十一カ国の農業団体がその概念を含んだ共同宣言を発表しました。国連の第六十回人権委員会でも「食料主権」についての報告が圧倒的多数で採択されるなど、食料主権の確立を求める世論は世界の大きな流れになっています。
五月下旬、日本の農民連と東・東南アジア七カ国の農民組織が東京に集い、「WTOから食糧主権へ」と題したフォーラムを開きました。土壇場のWTO交渉で各国の農業を犠牲にする決着を許さないためにも、この世論を日本と世界に広げるときです。(おわり)