2006年6月22日(木)「しんぶん赤旗」
米軍の戦闘行動と一体に
イラク 空自の活動拡大
最も危険な紛争地へ
小泉内閣は二十日の安全保障会議で、イラクに派兵している陸上自衛隊の撤退と同時に、航空自衛隊の活動範囲を拡大することを決定しました。日本共産党の志位和夫委員長は、同日の党首会談で空自の活動拡大によって米軍の戦闘活動と一体となる危険を指摘し、陸自とともに空自の撤退を強く求めました。空自の活動拡大の危険はどこにあるのか。
空自はこれまで、イラク南部のタリルやバスラといった比較的平穏な地域に活動範囲を限定していました。バグダッドなどへの空輸は、安全確保の見通しがないことから見合わせてきたのです。
ところが、昨年十二月のイラク派兵の基本計画変更の際、実施要項で空自の活動対象となる空港を十三から二十四に拡大。今年三月には、バグダッド西方の米海兵隊部隊の拠点アサド空軍基地に空自隊員七人が調査に入り、「もし命令が下れば、われわれはここに飛ぶ準備が整っている」などとのべました(米海兵隊ニュース三月二十五日号)。
政府は今回の陸自撤退に伴って、活動範囲の拡大を実際にバグダッドや北部のアルビルまで拡大しようとしています。小泉首相は二十日の党首会談で、アサド基地への空輸も「検討する」と答えました。空自のイラク派兵部隊の増強も検討する考えを示しています。
米軍は、膨大な予算を投じて航空基地の増強を進め、空からの攻撃力や空輸能力を高めようとしています。イラク駐留米軍高官は昨年五月、今後拠点となる航空基地として、バラド、アルビル、アサド、タリルを挙げています。空自の活動範囲の拡大は、このような米軍の戦略に沿ったものです。
空自の活動範囲が拡大されれば、米軍の掃討作戦の中枢部で輸送活動を展開することになります。二十一日現在、米軍を中心としたイラク駐留多国籍軍の死者約二千七百三十人のうち、バグダッドで六百二十六人、アサド基地があるアンバル州で八百九十五人が死亡しています。
バグダッド近郊で英軍のC130輸送機が撃墜されるなど、航空機の撃墜や航空基地への攻撃も相次いでいます。(表)
自衛隊の先崎一統合幕僚長は「空自の新たな空輸先となるバグダッド周辺は、現在でも脅威は一番高い。輸送機による空港への降り方などの訓練を重ねながら対応していく」(「読売」二十一日付)とのべています。
空自は文字通りの「戦闘地域」に活動を拡大し、最前線で戦闘を行っている米軍との一体化に踏み出すことになります。
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米兵輸送が主任務
政府はこれまで「人道復興支援」を優先し、残りの範囲で「安全確保支援活動」=米軍主導の多国籍軍支援を実施するというのが建前でした。
ところが、「人道復興支援」を名目にしてきた陸自部隊を撤退させれば、残るのは「安全確保支援活動」の名による米軍支援だけです。
空自の輸送活動自体、これまでは「陸自等人員・物資等の輸送を優先している」(防衛庁)と説明。空輸開始後百日の実績で、陸自隊員が68%、米兵27%という報道もありました。
陸自撤退後は、活動の大半を占めていた陸自の輸送がなくなり、文字通り米軍の物資、兵員輸送に特化されるのです。
空自が支援対象とする米軍はこれまで、イラク全土で二百十回に及ぶ掃討作戦を繰り返してきました。その実態は、罪のない多くの女性やお年寄り、子どもを殺りくする横暴な軍事作戦です。
こうした軍事作戦に加わる米兵や、そのための物資を空自が輸送することは、イラク民間人を殺りくしてきた掃討作戦を直接支援することになるのです。
二年前、武装米兵の輸送を認めた津曲義光航空幕僚長は「運んだ部隊がそのまま、(輸送先の空港がある)タリルから即、戦闘車両で移動し、戦闘に参加したら、やはり(空自の)輸送が軍事行動の一部だと疑われる可能性がある」「戦闘目的で移動するため、空自のC130輸送機を使うのは勘弁してくれということだ」とのべました。
しかし、米軍輸送が中心任務となり、激戦地のバグダッドやアサドへの輸送が行われるようになれば、戦闘行動と一体化する危険は現実のものとなります。
一方、政府は、空自の活動について「武器・弾薬は輸送しない」と説明します。しかし、米兵がみずからを守るために携帯している武器については容認しています。石破茂防衛庁長官(当時)は「対戦車弾も迫撃砲も、自分の身を守るためだからいいのだという理屈もそれなりに成り立つ」(二〇〇三年十二月十六日)とのべています。
また、輸送する物資について「武器弾薬を一つひとつ点検して選び出して、別にして(運ぶ)、こういうことは実際のオペレーションとしてはなかなかしにくい」(福田康夫官房長官、〇三年六月二十五日)とも説明。輸送物資に武器・弾薬がまぎれ込んでいても、発見できない可能性もあります。
イラク派兵の航空自衛隊部隊 2003年12月26日以降、C130輸送機3機、隊員約200人が交代で派兵されています。輸送回数は327回、輸送した物資の総重量は460.5トンに上っています(06年6月16日現在)。