2006年6月19日(月)「しんぶん赤旗」

こちら社会部

未公開株詐欺の巧妙な手口

「上場で値上がり確実」

一流企業思わせるHP


 「上場すれば値上がり確実」などと未公開株を買わされ、多額の損失を出す被害が続出しています。詐欺まがいの勧誘で知識の乏しい個人投資家を食い物にする悪質業者が増えているからです。架空の未公開株の購入を持ちかけられながら、すんでのところで思いとどまり、被害を免れた例もあります。巧妙に仕組まれた詐欺の手口とは―。


「年商約一兆円」

 「年商は約一兆円。中国などで野菜を栽培し海外で事業を広げ、いま日本に進出中」「この会社が上場すれば、大きな喜びをお約束できる」

 東京都中野区のビルの一室。千葉県に住む宇野和郎さん(62)=仮名=は、近く株式上場を予定しているというA社の未公開株の購入を熱心に勧められました。

 勧誘しているのはA社の社長本人と、仲介する東京・新宿区内の「株式募集代理店」の社員です。

 社長のほかに女性秘書が一人。応接セットと事務机をおいただけの殺風景な部屋でした。年商一兆円の企業という実感はもてません。

 宇野さんの不安を見透かすように、社長らは刷り上がった株券の束や会社の決算書などを示しながら、「本社は渋谷区にあります。ここは社長室。別個にしているんです」と説明するのでした。

住所に本社なく

 宇野さんのもとに、A社の未公開株購入を勧誘するDM(ダイレクトメール)が届いたのは三月はじめのこと。心が動きました。宇野さんはこの少し前、詐欺まがいの投資信託で被害にあい、大きな損失を出したばかり。やせるほど悩み、家族にも言えずにいた損失を何とか取り戻したいという気持ちがあったからです。

 A社のホームページを開くと、「中国、東南アジアなど十一カ国に総計二万七千ヘクタールの自社農場」などの文字が並びます。労働力の安い海外で野菜を生産し、国内の外食産業に供給するというものです。ホームページは一流企業を思わせる凝ったつくりで、宇野さんを信じ込ませるのに十分なものでした。

 募集要項では五百人の個人株主に一株八十万円の株を三千株、合計二十四億円を売り出すというもの。申込期限は一週間後に迫っていました。宇野さんは十九株千五百二十万円を仮申し込みしました。

 しかし、一度だまされた経験を持つ宇野さんは、代理店の社員にA社の役員にあわせてほしいと要求します。そして数日後、案内されたのが前出の中野区のビルの一室だったのです。

 社長に会ってうさんくさいものを感じた宇野さんは翌日、渋谷区のA社本社を見てみようと訪ねます。ところがパンフに載っている住所には建物は見あたりませんでした。本紙が確かめに行くと、そこには渋谷区が土地を所有する公園と三階建てのマンションがあるばかり。住民に聞いても郵便配達員に聞いても、そんな会社は知らないと口をそろえます。

 さらにA社株式上場の幹事証券会社とされる大手証券会社は、同社のホームページ上で「当社が主幹事の事実はなく、勧誘行為にもいっさい関与しておりません」と注意を呼びかけています。

 宇野さんは言います。「実に手が込んでいて、もう少しでだまされるところでした。こんな被害にあわないように、注意を呼びかけてほしい」


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp