2006年6月17日(土)「しんぶん赤旗」
B型肝炎 救済期間を拡大
最高裁 原告が全面勝訴
集団予防接種が原因でB型肝炎に感染したとして、札幌市の患者ら五人(うち一人死亡)が、国に計五千七百五十万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審判決が十六日、最高裁第二小法廷(中川了滋裁判長)であり、原告の訴えを認め、国に計二千七百五十万円(一人あたり五百五十万円)の支払いを命じました。
最高裁が集団予防接種における肝炎ウイルス感染について、「予防接種のほかに感染原因となる具体的事実はない」として国の責任を認めた画期的な判断を示しました。
二人の原告について、「損害賠償請求権が消滅する二十年の除斥期間が経過している」として請求を棄却した高裁判決を破棄。争点の除斥期間のスタート時点について、一定の潜伏期間の後に症状が現れる場合、実際に発病して損害が現れたときと判断し、二人の訴えを認めました。原告側の全面勝訴が確定しました。
原告団長の木村伸一さん(41)は「原告はわずかに五人ですが、今日の勝利はすべての肝炎被害者の救済に大きな力となります。提訴から十七年と長かったが、支えてくれた人たちに感謝したい」と喜びを語りました。
原告団・同弁護団、肝炎訴訟を支える会は同日、「判決を厳粛にうけとめ全国のウイルス性肝炎患者・感染者に謝罪するとともに、すみやかに全肝炎患者の救済のための総合対策を取ることを求める」との共同声明を発表しました。
解説
予防接種が原因 国の無策断罪
B型肝炎訴訟は、感染経路が集団予防接種以外考えられない被害者が一九八九年六月に国に損害賠償を求めて提訴。一審は原告敗訴しました。二審は、集団予防接種における肝炎ウイルス感染について国の責任を認め、五人のうち三人が勝訴。二人については「損害賠償請求権が消滅する二十年の除斥期間が経過している」として、原告の控訴を棄却しました。
原告と国双方が上告した最高裁第二小法廷は、今年四月七日、弁論を開き結審し、この日の判決を迎えました。
判決で中川了滋裁判長は、〇二年の「筑豊じん肺」、「関西水俣病」の最高裁判決の判断と同様に、除斥期間のスタート時点について、一定の潜伏期間の後に症状が現れる場合、実際に発病して損害が発生したときまで先延ばしできるとして、損害賠償を認めました。
集団予防接種は、一九四六年から腸チフス・パラチフスが強制的に行われ、その後もジフテリア・百日ぜき・破傷風・ポリオ・結核予防のBCGと続きました。
一九四八年の「予防接種法」は、針も含めて注射器の連続使用を明文化して認めました。このため、みんなを並ばせて、同じ注射器が連続使用されたのです。
イギリス保健省は四五年七月に注射器で肝炎感染の危険を警告。日本でも四八年には汚染した注射器具で感染することが紹介されました。ところが、国は危険性を知りつつ注射器の連続使用を認めました。予防接種で使い捨ての注射器使用が許可されたのは七六年になってからで、しばらくは連続使用されていました。
日本の肝炎ウイルスのキャリア(持続感染者)は、四百万人とも五百万人ともいわれています。肝炎を発症している人が二百万人、毎年四万人を超える患者が肝がん・肝硬変で亡くなっています。
判決は、こうした国の肝炎対策の無策をきびしく断罪したものです。国はすみやかな救済策にとりくむことが求められています。(菅野尚夫)
B型肝炎 ウイルス性肝炎の一種で、肝臓に炎症が起き、食欲の低下、吐き気、全身の倦怠(けんたい)感などが症状として現れます。感染者の血液、体液との接触や、出産時に母子間で感染します。ウイルス感染から長期の潜伏期間を経て発症する慢性肝炎は、肝硬変や肝がんになるケースもあります。未発症者も含めた感染者は百二十万人から百四十万人とされます。