2006年6月16日(金)「しんぶん赤旗」
主張
福井日銀総裁
マネーゲームとは両立しない
インサイダー取引で逮捕された村上世彰容疑者の「村上ファンド」に、日本銀行の福井俊彦総裁が一千万円を投資し、運用させていました。
日銀生え抜きの福井総裁は、副総裁を務めていた一九九八年に部下の不祥事で引責辞任し、富士通総研の理事長に就任しました。この理事長時代に、知己の村上容疑者が主宰する村上ファンドのアドバイザリーボード(経営諮問委員会)に名を連ね、投資もしていました。
総裁就任後も、最近まで投資を解消せず、運用を任せ続けました。
「たいした額ではない」
福井総裁は、投資収益は「再運用」させてきたと国会で答弁しました。村上ファンドの収益は年率30、40%に上ったと言われています。年率30%としても、収益を再運用すれば、投資資金は三年で倍に、六年で五倍化します。
当初の一千万円の資金は数千万円に膨らんでいるものと思われます。
福井総裁は「たいした額ではない」と説明しています。庶民の金銭感覚とはあまりにもずれています。
日銀は日本の通貨「円」の元締のような存在です。物価の安定を通じて、国民経済の「健全な」発展を図ることを使命としています。
そのために日銀は通貨の供給量を調節し、市場金利を誘導します。
株価にも影響します。通貨供給が増えれば株式市場に流れる資金も増加し、金利が下がれば景気にプラスだという観測から株が買われます。
その日銀の責任者である総裁が、株式市場を舞台にしたマネーゲームに加わり続け、不安定雇用に苦しむ若者の年収の十倍、二十倍もの利益を労せずして稼いでいました。
「不健全」そのものです。
とくに福井総裁は、ゼロ金利を維持し、通貨供給量を天文学的な規模に拡大する「金融の量的緩和」を強力に推進してきた張本人です。最近の株式ブームは「預金金利のゼロ金利が続いていることが原因」だと総裁も認めています(昨年十二月の経済財政諮問会議)。
日銀のゼロ金利政策によって預金金利が抑えられ、国民は三百兆円以上もの利子を奪われています。他方で株式市場には湯水のように資金が流れ込み、ライブドアや村上ファンドがぼろもうけを上げてきました。そのぼろもうけの一端に日銀総裁がつながっていた―。とても許せることではありません。
参院予算委で日本共産党の大門実紀史議員が追及したように、福井総裁の投資収益には、村上ファンドのインサイダー取引による利益も含まれています。
それにもかかわらず、問題はないと突っぱねる福井総裁、小泉首相や閣僚は、まともな感覚がまひしてしまっているとしか思えません。
日銀は九八年、当時の証券課長が、高額接待の見返りに、大手銀行に公表前の重要情報を流すなど便宜を図ったとして逮捕されるスキャンダルを起こしました。福井総裁自身が副総裁のいすを追われた事件です。これを受けて、日銀は不祥事の再発防止に取り組んできたはずです。
福井総裁の行為と開き直りは心ある職員の努力を踏みにじり、日銀の権威を地に落とす重大な誤りです。
高い倫理は世界の常識
中央銀行総裁の言動は、株式市場はもちろん経済全体に大きな影響を及ぼします。日銀の仕事はインサイダー情報のかたまりです。総裁の言動に極めて高い倫理性が求められるのは当然であり、世界の常識です。
日銀総裁の地位とマネーゲームは、決して両立しません。