2006年6月9日(金)「しんぶん赤旗」
人間を思い作った教育基本法
衆院教育基本法特別委 参考人質疑
堀尾東大名誉教授の発言
(要旨)
衆院教育基本法特別委員会が七日行った参考人質疑から堀尾輝久・東京大学名誉教授の発言(要旨)を紹介します。
なぜ「改正」が必要なのかという根拠について理解できません。自民党の町村信孝議員は、本委員会で「敗戦後遺症」という言葉を使いました(五月二十四日)。はたしてそうでしょうか。
あの敗戦の中で、私たちの先人がどういう思いで新しい人間を育て新しい国をつくろうとしたか。その思いが教育基本法をつくったのです。
その中心になった田中耕太郎(当時の文相)、南原繁(当時の東大総長)たちは、本当に人間を思い、国を思った人たちです。戦後改革を担った人たちは真の「愛国者」だと思っています。「敗戦後遺症」という形でわれわれの先輩をとらえていいのでしょうか。教育基本法は占領軍の押し付けでつくられたのではないのです。
先人たちが過去の反省を踏まえて、新しい人間をつくり、その人間を軸に新しい国をつくろうとした。その際中心になるのが一人ひとりの人間の尊厳です。真理と平和を希求する人間です。その人間をつくることが教育基本法の精神です。それが新しい世界を開いていく。けっして一国の平和主義じゃないのです。日本の平和主義を世界に広げていくという使命の自覚を通して、憲法をつくり教育基本法をつくったのです。
私は、教育基本法、憲法の精神を本当に現実に生かす―それは条文を守るということではなくて、その精神をどういうふうに具体的に自分たちのものにしていくのか、現場でそれを発展させることができるのか、一人ひとりの未来を担う子どもたちにその精神をどういうふうに生かしていけばいいのか―という方向で教育を考えてきた一人です。
教育というのは、さまざまな人がさまざまな議論をするのが大事であって、それを法律で縛り、一つの方向付けを国がやるのは越権行為であると思います。
では、なぜ教育基本法で教育目的を定めたのか。それは戦前の教育のあり方というものが、教育勅語を軸にした超国家主義、軍国主義に支配された教育であった。それをどう克服するかという現実の課題の中で、教育目的についても規定せざるを得なかったのです。
今回の「改正」は、まさに国が口出しをする方向で書かれています。その最たるものが「改正」案で二条(教育の目標)を新設したことです。さらに一〇条(教育行政)を大きく変えて、教育は法律に従うものだという書き方をしています。教育と教育行政の区別という観点が全くなくなったのが、今度の「改正」案です。このことでは政府案と同じように民主党案も問題を持っています。
法と教育の関係は非常に大事です。何でも法で決めればいいということではなく、法で縛れば現場がどうなるかを考えていただきたい。