2006年6月9日(金)「しんぶん赤旗」
東京の一斉学力テスト 子どもの心に深い傷
学校を序列化・競争激化
授業を削って「模擬試験」
平均点アップへ欠席指導
教育基本法を改悪し、新たにつくる「教育振興基本計画」で、政府が真っ先にやろうとしているのが、全国一斉学力テストです。独自の学力テストを実施している東京都では、激しい競争を教師や子どもたちに強いるなど、教育現場に大きな混乱と困難をもたらしています。(山田芳進)
東京都では二〇〇四年度から、小学五年生(国語・算数・理科・社会)と中学二年生(国語・数学・英語・理科・社会)全員に一斉学力テストを実施しています(中学生は〇三年度から)。
|
荒川区では、全国に先駆け〇二年度から小中学校全学年に、足立区では〇五年度から、小中学校の児童生徒全員(小一を除く)に実施しています。
この二つの区では、各学期ごとの中間・期末テストに加え、学年によっては一年間に、都と区が実施する二つの学力テストを受けなければなりません。生徒はまさに、テスト漬けの状態に置かれています。
結果まで公表
荒川区では、独自テストの結果をホームページで公表しています。〇四年度の都の学力調査結果は、区市町村ごとの平均点を公表。同テストで二十三区中最下位とされた足立区は、学校ごとの平均点も発表しました。
この結果発表を受け、各学校では対応策の提出が求められます。教育長が結果の悪かった学校の校長を呼び出し、校長が担任や教科担当に対応策の作成を命令するのです。
「どうしても成績が気になるし、授業も、テストに出る内容ができるようにすることが中心になってしまう」と足立区の小学校教諭は言います。
学力テストの点数を上げるため、繰り返し同じような問題や「過去問」をやらせる授業や指導が行われています。「年明け実施の都の学力テスト対策に、冬休みは各学年二教科に十枚近くのプリントを出した」「テストの一週間前に、通常の授業を削り、二時間使ってプレテスト(模擬試験)をやらせた」という教師もいます。
学校の平均点を上げるため、足立区内のある中学校では、テスト前日に担任が「最後まできちんと受けられないなら来るな」と生徒を指導し、少なくない男子生徒が欠席するという事態まで起こりました。
今年も足立区では四月に独自のテストが実施されました。始業式から一、二週間は新しい教科書には手をつけず、前年度の復習、過去問、類似の問題の反復練習に集中します。
「テストは国語も算数も、小学校低学年には圧倒的に分量が多い。四十分休まずやり続けて、やっと解ける内容。一つテストが終わるたびに、『お腹が痛い』と言う子が出る。給食後の昼休み、外の水道で吐いている子もいた。みんなストレスが大きかったようだ」とある教師は語ります。
このような学力テストに多額の税金が使われています。荒川区と足立区のテストはそれぞれ千五百万円、五千万円をかけ、テスト業者ベネッセに委託されています。
一企業が生徒の情報を独占することに、父母の不安が高まっています。学力調査にある親へのアンケートには子の出席番号がふられており、個人の特定が可能です。ある教材業者から「おたくのお子さんの都の中の順位を教えましょうか」という電話を受けた母親もいます。
自由化で拍車
一斉学力テストの結果公表と、学校選択の自由化がセットで行われたため、競争の激化、学校の「序列化」が進んでいます。
荒川区の「学校合同説明会」では、各校が学校紹介をしますが、そこでは学力調査の結果も学校を選ぶ資料とされています。同区では、〇三年度に入学者ゼロとなる小学校もありました。
足立区でも、児童生徒が集中する学校とそうでない学校が固定化しています。ある小学校では、例年百人前後入る新入生が、今年は七十七人へと減りました。
人気があって児童生徒が集中する学校では、教室が足りなくなったり、一人ひとりへの指導が行き届かなくなっているといいます。一方、抽選もれで不本意な学校に行くことで学習意欲がそがれる児童生徒がいたり、児童生徒数の減少で教師の数も減らされ、学力が低下し、「荒れ」がさらにひどくなるなどの事態も起こっています。
東京都で最下位だったある自治体の生徒たちが、部活の対外試合で相手校の生徒からばかにされたとの報告もあります。
東京都教職員組合の橋本敏明足立支部長は「学力テストの結果公表は、競争を激化させている。すべての子どもの学力を上げることがたいせつなのに、学力テストの結果公表は、百害あって一利なしだ」と語っています。
|
|