2006年6月5日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
森林生かし地域も再生
森林の「荒廃」がいわれて久しくなります。間伐されない木々で森は“お化け屋敷”のよう。竹林は周辺に暴れ出しています。原因をつくったのは人間です。いま発想を転換する時。森林を生かしている人々、地域の活動をリポートします。新緑が目に染みる季節、みなさんも自然の懐へ、いかがですか。
岩手・陸前高田市(りくぜんたかたし)
木炭
発電装置作り林業も振興
地元資源循環で生活できる
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木炭を核に山村の活性化をめざす岩手県陸前高田市の生出(おいで)地区。四月からは木炭発電が稼働を始めました。東北大学と共同した木質バイオマス利用の発電システムです。
木炭発電は木炭自動車の仕組みを応用したもの。木炭を燃焼して発生させた一酸化炭素に水を加えて水性ガスに転化し、エンジンを回転させ発電します。
軽トラックの荷台に設置された発電装置の出力は二―十キロワット。試験発電では、電気ドリル三台を動かすことができ、シイタケ栽培の原木に穴をあけ菌を植え込む作業に力を発揮しました。
「山村の資源を循環活用して、住民が生きていける環境をつくるのが私の夢です。炭焼きや木炭発電、木炭車製作は、そうした考えから始めました」と語るのは、生出地区コミュニティー推進協議会会長の佐々木英一さん(72)。陸前高田市森林組合の組合長でもあります。
山村再生は林業振興と一体でなければ展望はないといいます。この立場から、住民と東京の大学生による森林の間伐、広葉樹の植林、炭焼き体験が行われてきました。
小学生も炭焼き
生出には市が建設した「ホロタイの郷 炭の家」(ホロタイとはアイヌ語で「大いなる森」の意といわれる)があり、炭焼き研修のほか、宿泊もできます。市営の炭窯三基から出荷される木炭は、年間一千袋(十五キロ入り)。炭材は市有林の木材を安価で入手できます。農薬散布されていない松炭は好評で、首都圏から大口注文が入るほど。
炭焼き体験は全国からの団体研修のほか、生出小学校(児童数十三人)の児童や周辺自治体の小中学生が参加します。指導するのは、岩手県グリーンツーリズム・インストラクターで、炭焼き歴四十年以上の菅野昭さん(72)。「子どもに木炭の良さを知ってほしい。県の認証を受けた木酢液や、いぶしタケの製造もやりたい」と話します。
四月からは、かやぶきの水車小屋も動き始めました。アワ、ヒエ、ソバなどの雑穀を製粉して自然食にし、住民と来訪者に提供します。
住民輝く自治体に
生出の人口は三百九十人。高齢化率は40%以上ですが、新住民になる人もいます。東京の会社勤めを辞めて移住してきた生川克比古さん(44)、永田てるみさん(36)は、四月に住民の祝福を受けて結婚しました。
利便性、経済効率優先の都市生活に疑問を感じ、「自分の足で立った生活を」と生出の住民になりました。「環境を汚さない自然農法を軌道に乗せ、みんなと生出を元気にしたい」と語る克比古さんと、てるみさん。
佐々木会長は「若い人が来てくれて心強い。これから木質バイオと雑穀を組み合わせたグリーンツーリズムをすすめ、都市との交流を盛んにしたい」といいます。
中里長門市長は「住民の目線に立ち、要求を大切にした市政をすすめ、住民が輝いて生きられる自治体をめざしたい」と語りました。
(宮本敦志)
世界でも注目
国際炭やき協力会の杉浦銀治会長の話 木炭は、化石燃料による環境汚染、地球温暖化が問題となっている今日、新しい可能性を持った地域資源です。アジア、アフリカでも炭焼きは循環型エネルギーとして注目されています。日本の林業は外材輸入の圧迫で衰退し、山村では過疎と高齢化が進んできました。生出地区のような林業振興とセットの炭焼き・木炭活用運動が全国で広まれば、日本の山村と林業は再生に向かうでしょう。
神奈川・南足柄市(みなみあしがらし)、中井町(なかいまち)
竹林
住民、ボランティアら整備
恒久的管理は今後の課題
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神奈川県南足柄市三竹(みたけ)地区や同県中井町では、行政の支援のもと、地元住民や市民団体、ボランティアが荒廃した竹林を整備し、地域の活性化につなげる取り組みを行っています。
三竹地区と中井町には竹林がたくさんあり、以前は竹材を多く生産していました。しかしプラスチックの代用などによって、生産が減少、管理する人手が不足し、竹林は次第に放置され、荒れていきました。
竹林は、人の手が入らなければすぐに無雑作に生え、枯れた竹が入り混じってしまいます。また、隣接する雑木林や畑まで侵食し、ダメにしてしまうこともあります。
そのため、足柄上地域県政総合センターは二〇〇四年度から「あしがら竹林再生事業」を実施しています。〇五年度には中井町にも同事業を拡大しました。
南足柄市三竹地区では、地元住民でつくる「三竹里山の竹林を考える会」(杉山精一会長)が中心となり、また、中井町では、横浜市の市民団体「日本の竹ファンクラブ」が中心となって、県内各地から公募したボランティアの人たちと協力し、竹林を整備・管理しています。
募集を見て友人と
事業開始時点では、三竹地区の竹林(約二十三ヘクタール)のうち約43%(約十ヘクタール)が荒廃し、中井町でも十三ヘクタールの竹林で荒廃が目立っていました。
事業を進めた結果、〇五年度までに二つの地域を合わせて約三ヘクタールの竹林が整備されました。
五月二十七、二十八の両日、中井町で雨のなか、二日間で七十五人が参加して竹林の整備が行われました。
枯れた竹や密集しすぎる部分を取り除いたり、斜面を行き来しやすいようにクワで土をおこし、竹や木材を敷いて小道や階段を作ったりしました。
募集を見て友人と参加した瀬戸洋さん(33)=同県開成町在住=は「けっこうハードだけど、達成感がわきますね。竹林の荒廃の深刻さが実感できました」と感想をのべ、「日本の竹ファンクラブ」の一員の中元秀幸さん(63)=横浜市在住=は「パソコン画面に向かう仕事をしていたときとは違って、自然はいろいろと予想できないことが起きる。それとどう付き合っていくのか、考えながらやるのがおもしろい」と語りました。
イベントや商品化
同事業ではこのほか、竹の子掘りや竹細工作りなどのイベントも数多く開催しています。昨年四月に行われた「三竹たけのこ祭り」には約二千人が参加しました。
中井町では、竹林整備をミカン狩りや農産物直売とセットにした行事にするなど、地域経済の活性化にもつながっています。
「三竹里山の竹林を考える会」の杉山会長は「豆腐屋の容器や、すだれなどの新たな需要も見つけ、竹材の商品化にも取り組んでいます。まだまだ竹林の一部分しか整備できず、永久的に竹林を整備・管理できる制度づくりが今後の課題です」と語ります。
一方、行政支援の方向について、足柄上地域県政総合センターの村松広さんは「地元住民の自立的なものにするために、参加者の意識の向上や観光資源として生かすことなどに今後も力を入れていきたい」と話しています。
(洞口昇幸)