2006年6月5日(月)「しんぶん赤旗」
主張
村上ファンド捜査
はがれた「株主主権」の仮面
東京地検特捜部が旧通産省出身の村上世彰氏の「村上ファンド」を捜査しています。内部情報を利用したインサイダー取引を禁じる証券取引法に違反した疑いです。
ファンドとは投資家から資金を預かり、市場で運用してもうけるビジネスです。投資対象や手法、経営情報の公開で規制がかかる「公募ファンド」と、規制がほとんどない「私募ファンド」があります。村上ファンドは後者に当たります。
ぬれ手であわの何百億
インサイダー疑惑の舞台は、昨年二月、ライブドアがフジテレビの親会社だったニッポン放送株を不正に買い占め、突然、大株主に躍り出た事件です。事前に大量のニッポン放送株を買い進めていた村上ファンドは、株価が急騰したところで五百万株を売り抜けました。手にした利益は、おおよそ百億円―。
ニッポン放送株の買い占めは、もともと村上氏がライブドアの堀江貴文被告に持ちかけた案件だったとされています。よってたかって企業と一般投資家を食い物にし、ぬれ手であわの大もうけを上げました。
村上氏は「会社は株主のもの」と主張し、企業価値を高め、古い経営を変えると豪語してきました。
「もの言う株主」の仮面をかぶった村上氏が実際にやってきたのは、投資先企業の価値や事業の公益性、従業員の意思をないがしろにし、自分だけもうかればいいという利益至上の身勝手なふるまいです。
それは、阪急との経営統合を進めている阪神電鉄株の買い占めの経緯にもはっきりと表れています。
村上ファンドの阪神株取得は、昨年九月に村上ファンドが財務局に提出した株式の「大量保有報告書」で初めて明るみに出ました。このとき、すでに、株主総会で拒否権を行使できる三分の一以上の株を買っていたことが後に分かっています。
大量保有報告書は株式の保有が一定割合を超えるごとに提出しなければなりません。ところが、村上ファンドのような「機関投資家」は、事業活動の支配を目的としないものに限り、大幅に提出期限を遅らせてもいいという特例があります。
村上ファンドは、この特例を最大限に悪用しました。経営権を掌握できる過半数近くまで阪神株を買い占め、村上氏らを阪神の取締役にするよう求め、「事業活動の支配」をちらつかせて株式の高値買い取りを迫っています。村上ファンドが阪神株の売却で手にする利益は五百億円に上ります。
こうした手口はバブル期に暗躍した「仕手」そのものであり、ハゲタカファンドと変わりありません。あぶく銭を手にするため、鉄道会社の最大の使命である安全確保を度外視し、阪神タイガースのファンの気持ちを踏みにじる野蛮なやり方です。
腐った病巣にメスを
村上ファンドのような私募ファンドを可能にしたのは一九九八年の投資信託の規制緩和です。それを提言した規制緩和委員会の委員長は財界を代表して規制緩和を推進する宮内義彦オリックス会長です。
村上ファンドは、そのオリックスの出資を受けて設立されました。村上氏がのし上がってこられたのは、「貯蓄から投資へ」を合言葉にする政財界の強力なバックアップがあったからです。
ライブドア事件と同様に、司直の手が伸びるまで手をこまねいてきた金融行政は情けないというほかありません。疑惑の徹底解明とともに、拝金主義、利益第一主義の腐った病巣にメスを入れる必要があります。