2006年5月30日(火)「しんぶん赤旗」
「公務員減らせ」の言いたい放題
職業紹介いらん
測候所いらん
国の責任放棄 とにかく民間まかせ
小泉内閣の有識者会議
国家公務員の削減計画を検討している政府の行政減量・効率化有識者会議が、三十日にも報告書を出す予定です。「国家公務員を五年間で五%以上削減」を掲げて、今でも足りない分野の公務員をさらに減らそうという小泉内閣。その議論を見てみると――。(深山直人)
■ILO条約一蹴
「無料だから人がくるのは当然。ハローワークの必要性の根拠にはならない」
厚生労働省と同会議の折衝で三月、委員からこんな意見が出ました。
「ハローワークの無料職業紹介事業は国が直接おこなう必要がある。包括的な民間委託は困難」と厚労省が説明したのにかみついたのです。
ハローワークは、憲法が定める勤労権を保障する公的な安全網。日本が批准しているILO(国際労働機関)八八号条約でも「国家の責任で無料で」としています。労働基準監督署と連携して法令違反企業への指導など労働条件向上の役割も担っており、民間任せにできない事業です。
ところが同会議の委員は「民間でできる」と決めつけ、ILO条約も「半世紀前に決めた大正時代の話」と一蹴(いっしゅう)。何人削減するのか示さないと「大きな割り当てをする」とどう喝まがいの発言まで出されました。
結局、厚労省は民間委託を拡大し、雇用・労災保険と合わせて千二百人の削減を表明しました。
■個人情報を軽視
同会議は財界人、学者、マスコミ人、労組代表ら十二人。飯田亮セコム最高顧問が座長。対象は行政機関の三十三万二千人。人員削減を指示した分野は、五省の十五分野に及びます。公表された削減数をあわせただけで軽く二万人を突破します。(別表参照)
土地・建物・会社の登記、自動車登録など厳正・公正・中立な立場から審査や対応が求められ、個人情報を取り扱うため民間まかせにできない業務が多数あります。
ところが同会議の委員は「民間人は信頼できないということか」と問題をすりかえ。「『滅私奉公』でなく『活私豊国』。民が生き生き活力を持ち、公が生産性を高め豊かになる」と、民間にまかせれば公共サービスが豊かになるとばら色に描く意見が相次ぎました。
■食の安全も無視
食品表示監視など国民の安全にかかわる分野も「全量チェックはできない。違反が出たらつぶせばいい」と責任放棄。
「大手スーパーはコンプライアンス(法令順守)の徹底に努めている。国の職員が各店舗まで巡回する必要はない」と民間まかせを求めました。
防災情報を国民に伝える気象庁も「安全・安心にかかわる業務といっても警察とは違う」といって独立行政法人化して国から切り離すよう求める意見が出され、気象・地震観測に欠かせない全国四十六カ所の測候所の全廃が打ち出されました。
あらゆる施策の土台となる統計も「(農林統計について)食料自給率が低いのに統計だけ精密でも何の意味もない」とばっさり。「国は企画立案・調整に純化すればよく定型的な業務は国の業務から落とすべき」だと、民間委託先にありきの議論が幅をきかせました。
ところが…
■官製談合は聖域
一方で、聖域とされた分野もあります。
官製談合疑惑を引き起こした防衛施設庁もその一つ。当初は「相当削減できる部分がある」としていたのに、「必要に応じて議論していく」とトーンダウン。俎上(そじょう)にもあがらなくなりました。
日本の公務員は国際的に見て少ないほうです。人口千人あたりの公務員数(国と地方の合計)は約三十五人。アメリカ八十一人、フランス九十六人の半分以下です。教職員や消防士、労働基準監督官など足りない分野が少なくありません。
国は国民生活を守る責務があります(憲法二五条など)。その業務を担う公務員を減らし、民間まかせにすれば、公共サービスは守れません。
座長は落札企業出身
公務員削減と民間委託でもうけ先を得る企業の関係者がメンバーには含まれています。
飯田座長が最高顧問のセコムは、山口県美祢(みね)市の「PFI(民間資金で建設・運営を行う)刑務所」を四百二十三億円で落札したグループの代表企業。刑務所の建設から警備、経理、炊事、医療など管理業務の大半を受託。セコムは島根県のPFI刑務所の入札にも応募しており、この分野での新たな事業拡大に乗り出しています。
刑務所について同会議は、刑務所のPFI事業や民間委託を法務省に指示。同省は「積極的に検討」と表明しています。
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