2006年5月20日(土)「しんぶん赤旗」

参院選での「平和共同候補」を求める運動について


 憲法改悪を阻止するためということで、来年の参議院議員選挙に向け、市民の手による「平和共同候補・平和共同リスト」実現をめざし、それを政党に求めるという「市民運動」が、一部で進められています。この「運動」は、憲法改悪に反対する多くの人々の期待に応えられるか――いくつかの重大な問題点を指摘しないわけにはいきません。

政党と市民運動の関係のあり方が問われる

 まず考える必要があるのは、この「市民運動」が問題にしているのは、憲法問題での共闘一般ではなく、国政選挙での共闘の実現だということです。

 国会内外の運動の面での共同の場合には、その運動が掲げる課題についての合意があり、その合意点を共同で推進する誠意が双方にあることが、共同の実現にとってなによりも重要な条件となりますが、国政選挙での共同は、それだけで可能になるものではありません。国政選挙で自党に属さない候補者を推すということは、その党が、共同の候補者について、国政の全般について自分たちおよび自党の支持者を代表する権限を委任することを意味します。

 だから、わが党は、国政選挙の共闘の場合、国政の全般についての政策協定を結ぶことを、不可欠の条件の一つとして主張し、この立場を一貫してつらぬいているのです。そして、私たちは、現在の日本の政党状況を見た場合、日本共産党との間で、このような政策協定を結び、それを基礎に国政選挙での共同を実現する条件――政策的一致と共闘の意思をもった政党は存在しない、という判断をしています。この判断は、選挙共闘にたいする立場とともに、私たちが、党の大会その他で確認し、公表しているところです。

 市民団体・運動が、政党に選挙での共同・共闘を要望することは、ありうることです。しかし、もともと市民団体と政党の関係は、対等平等の関係であって、どんな問題であれ、双方が自立した組織として相手の立場を尊重することが求められます。政党の存在意義にもかかわる政党間の選挙共闘の問題で、市民団体が、要望にとどまらず、“ああしろ、こうしろ”と指図するということになれば、それは、政党の自立性の全面否定です。

 市民の手で「平和共同候補」をという「運動」は、率直にいって、最初からこの筋違いを押し通そうというものです。「運動」の代表者たちのなかでは、七月に予定しているシンポジウムを案内する記者会見の席上などで、次のような発言があったと聞きます。

 「直接政党に申し入れると、ノーという答えが返ってきてしまう。それによって、その政党関係者は受けなくなってしまう。それは遅らせた方がいい。だから正式に各党に申し入れることはない。ただ、インフォーマルなレベルで折衝がある。七月まではじっとこらえて声を結集してから正式な申し入れをしたい」

 「政党に市民的圧力をかける」「恐怖感を味わわせなければならない」「いうことをきかなければ対立候補を立てる。別の政治団体をつくる」

 ここに見えているのは、一方的に“政党は自分たちの言い分をのめ”という態度であり、市民運動と政党が互いに自立性を尊重し合って共同するという立場ではありません。直接申し入れたら断られる、つまり無理筋だということがわかっているからこそ、「市民団体」の名で政党の支持者を個別に、インフォーマルに組織し、それを通じて政党にいうことをきかせよう、対立候補で脅かそうというのです。これは、策略的で非民主的な手口といわなければなりません。「憲法擁護」を看板にする「市民運動」に、あってはならない態度です。

憲法改悪阻止でいま必要なことは何か

 この「平和共同候補」運動が、憲法改悪反対闘争の重要性を強調しながら、「選挙共闘」しか視野に入れず、問題をこれ一本にしぼっているのも、大変奇異に感じられる点です。

 憲法をまもる運動には、日本共産党や社民党などの支持者だけでなく、政治的には保守的な立場の人も含め、文字通り思想・信条の違いを超え広範な人々が結集しています。「九条の会」の運動では、「会」の発足から二年で全国の地域・職場・学園・分野に五千に近い草の根の会が生まれ、さらに発展しています。ここには自民党の元議員なども参加しています。改憲反対の一点で、支持政党の違いを超えて国民の多数派を結集する条件は十分にあります。ここに憲法改悪阻止の展望、大道があります。

 憲法改悪阻止を真剣に考えるなら、全国レベルであれ、都道府県レベルであれ、市区町村レベルであれ、どこでも「憲法をまもろう」という世論と運動を、国民・住民の多数派にすることが、なによりも重要で確実な道です。

 「共同候補」運動は、この肝心な点をみずに、国政選挙での候補者問題を第一義にし、それを前面におしたて、それこそが憲法を守るもっとも幅広い、たしかな道であるかのように主張しています。しかし、どんな名目を掲げようと、広範な人びとの目には、これが選挙のための運動としか映らないのは明らかです。選挙に向けた候補者調整運動、しかも策略的な運動に、憲法改悪反対の運動を矮小(わいしょう)化すれば、いま改悪反対の運動に支持政党の区別なく結集している多くの人々を運動から遠ざけ、運動の発展に困難をもたらしかねません。改憲反対の多数派結集には、マイナスの効果しかもたらさないでしょう。

 いま、憲法改悪反対の運動を発展させるためになによりも必要なことは、「選挙共闘」問題などではなく、広範な国民各層のあいだで憲法改悪反対、憲法擁護の声を広げることに可能なあらゆる努力をつくすことではないでしょうか。

特定政党の事実上の“応援団”ではないか

 「共同候補」運動と同じ主張をしているのが、新社会党です。同党は、今年三月の定期全国大会で、市民の力で「平和共同候補」の実現をという運動の問題を、大会議題にして論議し、「改憲阻止のため参院選での共同戦線・共同候補の擁立の成功が最も重要」と決めました。今回の運動の中心に、前回参院選で「共同候補」擁立をすすめた団体がありますが、当時、その「運動の成功に総力をあげる」としたのも新社会党でした。

 新社会党はまた、昨年の総選挙にあたって「政党要件がないと決定的に不利な衆院ブロック比例選挙で護憲派の前進を実現するためには、社民党の政党要件を、社民党外の護憲勢力が活用」するという態度を表明していました。つまり、自分たちは政党要件(※)を満たす条件がないので、要件を満たしている政党を利用して国会に出ようということでした。今回の「共同候補」運動の訴えに「比例部分での共同リストなどを形成することができれば、単独では当選できない小グループからの立候補者にも、当選の可能性が生まれます」とあります。これは、新社会党の主張と同じ趣旨です。

 このように見てくると、「共同候補」運動は、推進者の意図はともかく、客観的には新社会党の応援団の役割を担う運動ということになります。特定の政党を応援する運動を「市民運動」の名でおしすすめ、他の政党をそれに従わせようというのであれば、それは、善意の人々をあざむくというより、もてあそぶことにさえなるでしょう。

◇  ◇  ◇

 憲法改悪阻止のたたかいにとって、来年の参議院選挙はたしかに大変重要な意味をもちます。重要であればあるほど、いま改憲反対勢力にとって必要なことは、憲法改悪に反対する国民・住民の多数派の結集、改憲派を圧倒する世論の形成に全力をつくすことです。わきたつような世論の動きこそが、選挙の様相を決め、政党の行動や方針にも影響を与えるのです。そのことを抜きにした狭い選挙対策で、政党に自分たちの勝手ないい分をのめと迫るような「運動」は、憲法改悪阻止の運動に障害をもちこむものです。

 ※政党要件 政党として独自に候補者名簿を提出できる公選法上の要件=参院比例代表選挙の場合では、国会議員五人以上、直近の国政選挙の得票率2%以上、選挙区・比例あわせて候補者十人以上のいずれかの条件を満たすこと。


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