2006年5月19日(金)「しんぶん赤旗」
高知・宿毛湾港への米イージス艦寄港
戦争計画への組み込み狙う
米イージス艦「ラッセル」を高知県宿毛湾に寄港させたいとのアメリカ政府の要請に反発の声がつよまっています。米艦船はこれまで高知県の港湾に寄港したことはありません。ブッシュ政権が地球的規模で戦争態勢をつよめているこの時期に寄港するのは、宿毛湾港を米軍の戦争計画に組み込んでおきたいとする危険な狙いがあるからです。
大事な非核証明
アメリカ政府がイージス艦「ラッセル」を今月二十三日から四日間、宿毛湾港に寄港したいと高知県に打診したのは四月。県は県議会の決議にもとづいて、核積載の有無を文書で日米両政府に照会していますが、いまだに回答はありません。
「ラッセル」はハワイに本拠地をおく「アーレイ・バーク」級のミサイル駆逐艦です。空母戦闘群に所属し、空母護衛を基本としながら、対地攻撃任務も付与されています。そのため対巡航ミサイル「トマホーク」を装備しています。
「トマホーク」には核弾頭搭載型と通常弾頭搭載型がありますが、米国政府・軍は、核積載について「否定も肯定もしない」政策をとりつづけています。核持ち込みを許さないためには寄港時に確認するしかありません。ブッシュ政権は「いまは戦争中」(QDR=「四年ごとの国防計画見直し」)といっているだけに核兵器の有無を確認することはきわめて重要です。
一部に、核持ち込みにかんする「事前協議」があるから大丈夫という声もあるようです。しかし、「事前協議制度」を信頼するのは危険です。「寄港」は「核持込に当たらない」という日米核密約が日米安保条約締結の際に結ばれているからです。日本共産党が入手した文書で明確になっています。米軍に非核を証明させることなしに寄港させるわけにはいきません。アメリカが県の照会を無視して寄港を強行するのでは、「国際親善」の目的にも反します。
港湾調査も目的
寄港は、「国際親善」「乗組員の休養」だけが目的ではありません。港湾が米艦船にとって使い勝手がいいのかどうかを調査することも大きな目的です。米艦船は民間港湾に寄港したさい港湾状況を詳細に調査しデータとして活用しています。反復寄港で更新もしています。調査結果は、米太平洋艦隊情報センターの報告書にまとめられ、いざとなったら、どの民間港湾が使い勝手がいいのかをわかるようにしています。
調査項目は、港湾能力(停泊地の数、深さ、収容能力)、潮流や天候状況、埠頭(ふとう)の深さや長さ、数、燃料補給施設、荷役労働者、給水施設などから、周辺陸地の医療施設、食料品、ごみ処理、バー・レストランなどにおよびます。
宿毛湾港は、水深が深く、戦前は帝国海軍の艦隊訓練地とされた経験のある重要港湾です。整備がすすみ四万トン級をふくむ埠頭も完成。米艦船にとって使い勝手のいい港湾と報告書に書かれることは市民、県民にとって迷惑な話です。
米軍からの要求
米軍は、戦争の際、日本の民間港湾を自由に使用できるようにせよと日本政府にせまっています。
二〇〇四年、在日米軍司令部は核開発疑惑を理由に北朝鮮を軍事制裁する米軍にたいする千五十九項目もの「対日支援要求」を日本に提出しました。自衛隊統合幕僚会議(当時)が作成した文書には、米軍が使用を求めた民間港湾は福岡、水島、松山、神戸、大阪、名古屋と明記しています。朝鮮半島での軍事紛争にまきこむことを前提にしたものとして重大です。
米艦船寄港は太平洋側でも目立っています。イージス艦寄港ラッシュです。二月長崎港に「ステザム」、鹿児島港に「ジョン・S・マッケイン」、五月和歌山県下津港に「カウペンス」が寄港。さらに、静岡県清水港に「モービル・ベイ」、宿毛湾港への寄港などと続きます。
足場を多く確保
なぜ、いま、宿毛湾港に手を伸ばすのか。二月に米国防総省が公表したQDRは、中東、中央アジアなどの動きを「流動的」「懸念」とみなすとともに、中国について「利害共有者」(ステークホルダー)になるようすすめる一方で、「いずれ伝統的な米国の軍事的優位を相殺しかねない」と危機意識を表明しています。
米軍は、こうしたアジア太平洋地域を念頭においた軍事戦略のために、日本の太平洋側で自由に使える基地の確保を狙っているのです。九州をはじめ四国を重視するのは、世界のどこでも迅速に米軍“殴りこみ”部隊を送り込む足場をより多く確保するためです。
アメリカの米軍再編は、国連憲章違反の先制攻撃戦争をすすめるための軍事態勢づくりです。アメリカは、日本全体をこの戦争政策実施の足場にしようとしています。宿毛湾港への米軍艦船の寄港は、このアメリカの戦争態勢を保証する道につながりかねません。
憲法の平和原則を生かして、アジアと世界で大きくなっている平和の流れを加速させることが日本の平和的役割です。宿毛市と高知県を戦争の足場にさせてはならないとの声を広げることが求められています。
(論説委員会 山崎静雄)