2006年5月19日(金)「しんぶん赤旗」
医療改悪法案 衆院通過
現場の怒りは消せない
お金のあるなしで受けられる医療の格差を拡大する医療改悪法案が十八日、衆院を通過しました。四月六日の衆院本会議で審議が始まってからわずか一カ月余り。審議で浮かんだのは、国民の健康や命よりも医療にかけるお金を抑え込む政府・与党の無情な姿でした。
法案に盛り込まれた「メニュー」は、日本の医療制度―保険証一枚あれば、分け隔てなく医療が受けられる国民皆保険制度―を根底から揺るがすものばかりです。
国民に過大な犠牲を強いる法案にもかかわらず、与党質問や政府側答弁にはまともな説明をしようとする姿勢すらありませんでした。
「痛み」押しつけを合理化するため、与党議員から出たのは「あまり過度な期待を国民に抱かせてもならない」(自民・北川知克議員)、「(法案は)給付削減、負担の引き上げばかりではないかという指摘があるが、現役世代の負担の増加を抑制することに直結している。このことをぜひ理解していただきたい」(公明・福島豊議員)という声ばかり。小泉純一郎首相も「医療費抑制」方針を堅持する姿勢を貫きました。
命落とす人も
小泉政権の「構造改革」路線にもとづく医療費の削減政策のもとで、いま日本の医療現場はギリギリの状態に追い込まれています。保険料が払えず、病院にいけないで命を落とす人がいます。小児科、産婦人科を中心とする深刻な医師不足、過重勤務は、地域医療を崩壊させています。
政府・与党からは、改悪法案が、いまでも深刻な医療現場にどのような影響を与えるのか、という問題への真剣な検討はありませんでした。
その根本にあるのは、改悪法案が「医療給付費の削減を至上の命題」としている(日本共産党の高橋千鶴子議員の反対討論)ことです。政府は、高齢化が進めば保険からの医療給付費(医療費から患者負担を除いた部分)が膨らみ、二〇二五年には五十六兆円になるという「将来予測」をもとに、“痛みを我慢せよ”といいます。
その試算方法を国会質疑で問われた小泉首相の口から出たのは「専門家に任せている」というものでした。こんな無責任な姿勢で国民に痛みを押しつけることが許されるわけがありません。
経団連が主張
医療給付費の総額抑制を最も強力に主張してきたのは、日本経団連をはじめとする財界です。医療給付費が増えれば、大企業の保険料負担にはね返るので、それを抑制する狙いです。経団連は「保険料や税負担が上がり続ければ、企業のグローバル競争力の低下を招く」(二〇〇五年の医療制度についての提言)などと主張してきました。
昨年十二月まで、政府・与党案に盛り込まれていなかった療養病床大削減が法案に急きょ入れられたのも、経団連の要求が背後にあります。患者負担増だけでなく、病床自体を減らすことで、医療給付費を大幅に抑えようというわけです。
国民、医療団体、地方自治体関係者の声を聞く参考人質疑、地方公聴会で共通して出されたのは、医療費抑制策でいかに過酷な事態がおきているか、という「医療現場からの悲鳴」でした。与党が数の力で強行しても、こうした現場の声を消すことはできません。
(山岸嘉昭)