2006年5月18日(木)「しんぶん赤旗」
政府答弁が裏づけ
教育基本法改悪法案の危険
教育基本法改悪法案は十六日の衆院本会議で審議入りし、論戦がスタートしました。この日の政府答弁は改定の理由をなんら示すことができないばかりか、「国を愛する態度」の法律による強制と、教育への権力統制という二つの大問題を裏づけています。
改定の理由 一切挙げられず
法案提出の理由について小泉純一郎首相は「科学技術の進歩や少子高齢化など教育をめぐる状況が大きく変化」したからと繰り返しました。しかし教育基本法のどこがどう変化に対応できないのか、一切示せませんでした。
自民党の下村博文議員も「憲法改正と並んで、自民党結党以来の悲願」と言うものの、「改正」の理由を挙げられない点は政府と同様でした。
「毎日」十七日付社説も「なぜ今、改正しなければならないのかという必要性と緊急性は、この日の政府側の説明でも相変わらず伝わってこなかった」と批判します。
対処すべき課題として首相は「道徳心や自律心の低下」「いじめ、不登校、家庭や地域の教育力の低下」「倫理観や社会的使命にかかわるさまざまな問題」をあげました。しかしこれは教育基本法を変える理由にはなりません。日本共産党の石井郁子副委員長は「これらの原因は教育基本法にあるのではなく、歴代政府が、基本法…に逆行する『競争と管理の教育』を押しつけてきたからにほかなりません」と訴えました。
政府はあくまで今国会での成立をめざしていますが、十六日のNHKの世論調査では、教育基本法を改正すべきだという人の中でも77%が「今の国会での成立にはこだわらず、十分な時間をかけて議論すべきだ」としています。
愛国心教育 職務で強制狙う
改悪法案は「教育の目標」として二十に及ぶ「徳目」を列挙しています。なかでも「国を愛する態度」について、小泉首相は「態度は心と一体として養われるもの」と述べ、「心」に踏み込む考えを示しました。
しかも首相は教員に対し「法令等に基づく職務上の責務として児童生徒に対する指導を行っているものであり、思想、良心の自由の侵害になるものではない」と述べました。「愛国心」教育を職務とすることで、教師が思想・信条の自由を理由に拒否できなくしようとするものです。
小坂憲次文部科学相は「これらの事項については現行の学習指導要領に規定され、各教科や道徳などにおいて実際に指導が行われており、今後、その指導の充実を図ろうとするもの」と答弁しました。
しかし学習指導要領は法律ではなく「文部科学省告示」にすぎません。学習指導要領の「道徳」の項目を法律に格上げすることで、国家による道徳強制が行われかねません。戦前「教育勅語」と一体に「修身」教育が筆頭科目にされたことを想起させます。
小泉首相は「内心の自由を侵害するものではない」と繰り返しました。しかし「国旗・国歌」法のときも国会で「強制しない」と繰り返しながら、東京都では「日の丸・君が代」問題で教員の大量処分が起きています。
三年前、愛国心を通知票の評価事項にしている小学校が全国で百七十二校ありました(朝日新聞二〇〇三年五月三日付)。愛国心の強弱が学校の成績につけられる―教育基本法の改悪によってこうした事態が広がることが危惧(きぐ)されます。
教育への介入 「法律」で正当化
改悪法案が「(教育は)この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの」と盛り込んだことについて、小坂文科相は「国会において制定される法律に定めるところにより行われる教育が、不当な支配に服するものでないことを明確にした」と開き直りました。
現行の教育基本法は「教育は、不当な支配に服することなく」と定めています。これは戦前の国家に従属した教育への反省から生まれたもので、禁止される「不当な支配」が戦前のような政府権力による教育統制を指すことは明白です。
ところが、小坂文科相は国家の介入を指すものではなく「一部の勢力に不当に介入されることを排除」するものと説明。自民党の下村議員は「不当な支配」を行う一例に「一部の組合組織」をあげる逆さまぶりでした。
政府の答弁や自民党議員の質問は、国家による教育への介入という改悪法案の狙いを浮きぼりにしました。