2006年5月15日(月)「しんぶん赤旗」

主張

入管法

人権を軽くみすぎていないか


 “テロの水際対策”を名目に、日本に入国する外国人に指紋などの生体情報提供を一律に義務付ける出入国管理・難民認定法「改正」案を、自民、公明両党が週明けにも参院で成立させようとしています。

 テロは許されない犯罪であり未然防止対策が必要なのはいうまでもありません。しかし、同法案にはあまりにも重大な人権侵害が伴います。国際交流への悪影響も大きく、とても認めるわけにはいかないものです。

回避すべき過剰対応

 法案は(1)外国人(十六歳未満と戦前から在住する特別永住者は除く)が入国、再入国するさい、指紋や顔写真の情報提供を義務付ける(2)収集した情報をデータベース化し保管する(3)法相が「テロリスト」と認定した者の国外退去を可能にする―が主な柱です。

 日本では公権力が指紋をとることができるのは、裁判所が令状を出すか、身体拘束を受けている被疑者にだけです。年間に入国する外国人は約七百万人。そのほとんどすべてを犯罪者扱いして、指紋、顔写真を強制的に提供させるというのです。

 この指紋、顔写真は、一万四千件の国際指名手配情報、過去の強制退去者七十万人分の資料と照合するといいます。しかし、照合の精度は低く、約一割で誤認が起こることが政府の実証実験でもわかっています。

 現行の入国審査体制でも偽造・変造パスポートを見抜く技術は高度なものです。日本共産党の仁比聡平議員は参院法務委員会で、一定の情報があれば指紋提供によらなくても不正を見抜けることをあげ、「より人権制約的でない手段があるときに、重大な権利侵害を伴う制約手段は回避するのが当然だ」と強く求めました。

 それにもかかわらず、憲法が保障するプライバシー権・自己情報コントロール権を侵し、国際自由権規約七条が定める「品位を傷つける取り扱いの禁止」にも反する過剰な対応に固執する政府の態度は異常です。

 国際的にも強い反発を呼ぶことは避けられません。政府が外国人を犯罪の温床のように扱うことは、国民に偏見や差別を広げることになりかねず、その害悪もはかりしれません。

 かつて日本には、外国人登録法による指紋押捺(おうなつ)制度がありました。しかし、在日外国人や人権団体の長いたたかいで二〇〇〇年に完全に廃止されました。

 このたたかいの過程で、最高裁も「国家機関が正当な理由もなく指紋の押捺を強制することは、同(憲法一三)条の趣旨に反して許されず、また、右の自由の保障は我が国に在留する外国人にも等しく及ぶ」という明確な判断を示しました。法案は歴史の歯車を逆行させるものです。

 法相認定による国外退去も問題です。テロリストの定義は国連でも不明確であいまいなうえ、法案ではテロの「おそれ」がある場合まで含むため恣意(しい)的解釈が可能です。テロとは無関係な外国人が対象にされ、重大な被害を生む危険性があります。

「テロ」と名がつけば

 世界をみても、同様の制度はアメリカが9・11テロ後に「アメリカ愛国法」で導入しただけで、これも国際的な批判を浴びています。

 杉浦正健法相は「テロがなければこのような法制の必要はまったく無い」という答弁をくりかえしています。「『テロ対策』と名がつけばなにをやってもいい」という無責任な態度は、現代版治安維持法=「共謀罪」とも共通です。人権をあまりに軽く扱う小泉政権、自・公巨大与党の暴走を許すわけにはいきません。


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