2006年5月9日(火)「しんぶん赤旗」
主張
共謀罪法案
「修正」案で強行許されない
犯罪の実行がなくても、謀議だけでも処罰できる「共謀罪」を新設する法案をめぐり、国会の審議が緊迫した局面を迎えています。
行為ではなく思想を罰することにつながるという国民の強い批判の前に、自民、公明の与党は法案の一部「修正」を持ち出しました。九日にも衆院法務委員会での採決をめざす強硬な姿勢です。
適用範囲は制限されず
「共謀罪」を新設する法案は、これまでの国会で二回廃案になり、今国会では昨年の特別国会に提案された法案が継続審議になっています。
「共謀罪」の新設には、多くの市民団体や法律関係者が反対しています。それはこの法律が犯罪の実行を話し合い、合意しただけで処罰の対象とする点でこれまでの刑法とは根本的に異なり、戦前の治安維持法のように思想そのものを取り締まる弾圧法規になる危険があるからです。
政府は、二〇〇〇年に締約された国連越境組織犯罪防止条約にもとづく国内法整備として「共謀罪」新設を急がなくてはならないといいます。しかし、条約は締約国の措置について「自国の国内法の基本原則に従って」としています。条約にことよせ、六百十九もの犯罪を共謀段階で取り締まる広範な弾圧法規を、新たにつくるなど許されません。
自民・公明の「修正」案は、(1)取り締まる団体は「その共同の目的がこれらの罪(中略)を実行することにある団体である場合に限る」(2)「共謀に係る犯罪の実行に資する行為が行われた場合において」はじめて処罰する――などとしています。与党はこれで、「国民の不安払しょく」(「公明新聞」四日付)といっていますが、あくまでも「共謀罪」の新設が前提で、「修正」内容も国民の不安を取り除くものではありません。
与党の「修正」案は、共謀罪の対象を犯罪組織に限った、といいますが、団体の「共同の目的」が正当かどうかは、あくまでも捜査当局の判断です。労働組合が「正当」な活動として会社の前でスクラムを組み、ピケットを張ったことが威力業務妨害罪で「犯罪」とされた例がいくらでもあるように、捜査当局の恣意(しい)的判断で共謀罪の対象団体が際限もなく広がる危険性はなくなっていません。「犯罪集団に限る」といいながら、その団体が過去に犯罪を行ったなどの事実も要件とされていません。
「共謀罪」で処罰するさい、共謀だけでなく「犯罪の実行に資する行為」を要件にしたというのもまったくのごまかしです。犯罪の実行に「資する行為」とは、犯罪の準備行為というのとは違って、はるかに広い概念です。結局は捜査当局の恣意的判断で、幅広く「資する行為」と認定することが可能で、なんの歯止めにもなりません。犯罪の実行にはあまり影響力のない、精神的な応援なども「資する行為」とみなされる危険が大いにあります。
法案は廃案しかない
与党「修正」案にたいし、日本弁護士連合会は「法案がもともと有している多くの問題点は是正されておらず、…法案には強く反対」という会長声明を発表しました。東京弁護士会も「思想信条の自由という内心の自由をも侵害する危険性はなんら払拭(ふっしょく)されていない」という声明を出すなど厳しい批判の声をあげています。
「共謀罪」は、憲法や教育基本法改悪の動きと軌を一に、日本を「もの言えぬ国」へと導く危険な法案です。法案を廃案に追い込むために、反対の声と運動を急速に強める必要があります。