2006年5月1日(月)「しんぶん赤旗」
米軍グアム移転日本負担
上限なし
無利子50年 返済見通しない融資
在沖縄米海兵隊のグアム移転経費で、日本側負担分が日米間で合意された金額よりもさらに膨れ上がる可能性があることが30日までに分かりました。移転の狙いは、海兵隊をグアム・沖縄・ハワイで一体的に運用するための新たな軍事拠点づくりです。そのために日本国民の巨額の税金が使われようとしています。(竹下岳)
米軍住宅や上下水道に
日米両政府は移転経費について、総額百二・七億ドル(約一兆一千九百億円)で合意しました(四月二十三日)。
このうち日本側負担は六十・九億ドル(約七千億円)で、内訳は(1)政府財政からの直接支出(いわゆる「真水」)=二十八億ドル(約三千二百五十億円)(2)同財政からの出資=十五億ドル(約千七百億円)(3)民間からの融資=十七・九億ドル(約二千百億円)――となっています(一ドル=百十六円で計算)。
(1)は米海兵隊の司令部棟、下士官が利用する隊舎、教場(海兵隊員の研修施設)、学校・託児施設に、(2)(3)は家族住宅の建設や上下水道・電気などのインフラ整備に充てられます。
家族住宅やインフラについては、出資と融資をもとに「PPP(官民協力、いわゆる民活導入)」という方式で政府と民間による「特定目的会社」を設立、同社が建設・管理します。
防衛庁は、(1)の金額は二十八億ドルが「上限」としていますが、(2)(3)については上限がなく、「今後変更があり得る」とし、総額がさらに膨らむ可能性があることを認めています。
しかも、膨らむ危険が高いのは、政府財政からの支出である出資です。「民間の融資先が見つからない場合、出資で穴埋めすることもある」(防衛庁)からです。
防衛庁は、米兵からの家賃や米軍が支払う水道代で融資分を返済、政府出資の元本はその後に回収するとしています。しかし返済期間は「五十年程度」(同庁)で無利子。確実に返済される見通しはありません。政府には融資が焦げついた場合の保証責任もあります。
家族住宅などを五十年間一度も改修しないことはあり得ず、特定目的会社を支える限り、追加的な出資も想定されます。
海・空軍・海兵隊を増強
一方、米側負担(四十一・八億ドル)で建設が予定されているのは、(1)ヘリ発着場(2)桟橋(港湾施設)(3)通信施設(4)訓練支援施設(5)整備補給施設(6)燃料・弾薬保管施設―などです。道路も整備されます。
日米の負担で建設されるこの新基地は、沖縄の「負担軽減」のための単なる「移転」ではありません。グアム・沖縄・ハワイの海兵隊部隊を一体的に運用し、さらにグアムの海・空軍と統合して三軍のハブ(拠点)として増強することが狙いです。
防衛庁によると、桟橋は、グアムの部隊が沖縄に再展開するための高速輸送艦の利用を想定しています。同艦は装甲車やヘリコプターなどの重装備も搭載可能で、グアム―沖縄間を二日以内で結ぶとされています。
また、海兵隊新基地には「沖縄以外からの兵力移転も計画されている」(同庁)といいます。ハワイや米本土からの兵力移転が考えられます。
米ソ対決時代、グアムには最大で百五十機を超えるB52戦略爆撃機や、原子力潜水艦などが配備され、朝鮮戦争やベトナム戦争の拠点となっていました。ソ連崩壊を受け一九九五年には海軍基地が大幅に縮小され、B52も撤退しました。
しかし、米軍は現在、「対テロ」戦争や中国「抑止」を念頭に、太平洋地域の兵力増強を進めています。グアムを日本と並ぶ地球規模の“殴り込み”拠点に位置付け、B52やB2ステルス爆撃機、無人偵察機の配備、攻撃型原潜の追加配備を計画しています。
グアムの海兵隊新基地は、米ソ対決時代の基地跡地に建設し、さらに増強する計画です。
在日米軍再編の米側実務責任者であるローレス国防副次官は「グアムには海兵隊だけでなく、空軍、海軍も合わせた主要なハブ(拠点)をつくろうとしている。沖縄からの海兵隊の移転はその一要素にすぎない」(「朝日」三月十七日付)と述べ、海・空軍、海兵隊の一体的な増強計画が進められていることを明らかにしています。
米側は当初、海・空軍基地の整備費用も「グアム移転費」のなかに盛りこんで総額を算出し、その75%を日本側に負担させることを狙っていました。
米が全額、当然
そもそもグアムは米国の領土であり、全額、米側が支払うのが当然です。米国領の米軍基地建設に他国政府が資金を出すというのは、世界にも例がなく、日本にとっても歴史上初めてです。憲法や財政法の原則からいっても他国の財産になるものに国民の税金を注ぎ込むことが許されるのか重大な問題を投げかけています。
しかも、「沖縄の負担軽減」とは無縁の米軍の先制攻撃体制の強化のために巨額の税金を出すことに何の道理もありません。日本国民の大多数が反対するのは当然です。
|
|
|