2006年4月24日(月)「しんぶん赤旗」

主張

福知山線事故1年

「安全より効率」を改めよう


 二〇〇五年四月二十五日午前九時十八分――。多くの人生が断ち切られ、あるいは暗転しました。

 死者百七人、負傷者五百五十五人にのぼる史上最悪の鉄道事故となった兵庫県尼崎市のJR西日本福知山線脱線事故から一年。事故を風化させることなく、その痛切な教訓を深く受け止め、生かしたいと思います。

「稼ぐ」が第一の風土

 兵庫県の調査では、負傷者の44%に強い心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状が出るなど、後遺症に苦しむ人も少なくありません。仕事を失い経済的に苦境に陥った人もいます。事故の傷跡はあまりにも大きいものです。

 半径三百メートルの急カーブに制限速度を三十キロも上回る時速百キロで進入したことによる転倒脱線―事故の直接の原因は、運転士の無謀な運転にあったとされます。しかし、それにとどまらぬ背景や要因が次々明らかになりました。

 ▽余裕のない運行ダイヤや定時運行の強要▽速度を監視し、異常なスピードの列車を減速させるATS(自動列車停止装置)の未設置▽懲罰的な日勤教育など運転士のあせりを生む人的・組織的要因▽車体そのものの軽量化による列車の強度不足―などなど。

 事故でかけがえのない家族を奪われた遺族の願いも、背景にまで立ち入って原因解明を深くすすめることであり、二度と事故をくりかえさない対策を明らかにすることです。

 事故の大きな背景は、JR西の過剰な収益・効率主義でした。日本共産党が国会で明らかにしたように、JR西大阪支社の〇五年度支社長方針が、第一に「稼ぐ」をかかげていたことは、安全より利益を優先する同社の体質の象徴でした。

 国鉄の分割・民営化で八七年に発足したJR西の「経営理念」の前文に「安全」の文字はありませんでした。「同業他社をしのぐ強い体質」をかかげ、大幅な人員削減の一方、安全投資を抑制。競合する私鉄との競争にスピードで打ち勝つ戦略で、危険な列車運行を続けていました。

 JR西は事故後の「安全性向上計画」で、企業の「風土・価値観の変革」をいっています。しかし、国労西日本がおこなった社員アンケート調査では、「計画策定後職場は実際に変わったか」という問いに、七割以上が「まったく変わらない」と答えています。現場の声に耳を傾けた、抜本的な対応が不可欠です。

 この背後で、国が安全への指導を緩めてきたことも重大です。

 政府は六七年に大手私鉄に出したATS設置義務付けの通達をJR発足時に廃止し、JRには義務付けませんでした。鉄道事業法などによる規制緩和で、制限速度も、車両の軽量化もJRまかせにし、行政は違反をとがめません。極端に余裕時分のないダイヤも、認可制でなく届け出制だとチェックをしていません。

命と安全まもる政治を

 いま、規制緩和万能の小泉「改革」の矛盾と破たんが、社会のあらゆる分野で噴き出しています。JR各社で事故やトラブルがあとをたたず、航空業界でも重大なミスが相次いでいます。ルールなき市場競争のなかで「安全より効率」がまかり通っていることが、大きな問題です。

 大量交通機関の安全の確保のために、安全規制、監視・監督を強めることは国の責任です。国民の命と安全を守るためにあらゆる手立てをつくす、まともな政治をつくることこそが、犠牲者の無念に報いるいちばんの道ではないでしょうか。


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