2006年4月19日(水)「しんぶん赤旗」
タイヤ脱落訴訟
「欠陥放置」と三菱自に賠償命令
「制裁的慰謝料」は否定
横浜地裁
横浜市瀬谷区で二○○二年一月、三菱自動車製大型トレーラーのタイヤが脱落し、直撃を受けた母子三人が死傷した事故で、死亡した主婦の母親が三菱自と国に一億六千五百五十万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が十八日、横浜地裁でありました。山本博裁判長(柴田寛之裁判長代読)は同社に五百五十万円の支払いを命じました。国に対する請求は棄却。「制裁的慰謝料」も認めませんでした。原告側は控訴しました。
訴訟では、再発防止を目的に原告側が三菱自に求めた一億円の制裁的慰謝料や、国の責任を認めるかが焦点でした。
判決は「民事訴訟の損害賠償の目的は損害の補償」と指摘。処罰を目的とする制裁的慰謝料は日本の法制と調和しないとしました。国に関しても「事故が欠陥によると容易に認識できる状況になかった」と判断、責任を否定しました。
三菱自については「部品の欠陥を知りながら、国に虚偽の報告をし欠陥を放置した。加害態様は非常に悪質」と非難しました。
訴えていたのは、死亡した岡本紫穂さん=当時(29)=の母増田陽子さん(56)。○三年三月に提訴。当初、被告としたトレーラーの運送業者側とは○五年二月に和解が成立しました。
事故をめぐっては、三菱ふそう元会長の宇佐美隆被告(65)ら三人と法人としての三菱自動車が道路運送車両法の虚偽報告罪で、同社元部長ら二人が業務上過失致死傷罪で起訴され、公判ではいずれも無罪を主張しています。
制裁的慰謝料 悪質な加害行為に対し、実際の被害以上に高額な慰謝料の支払い義務を課し、再発防止を図ります。米国では広く認められています。日本では京都地裁で適用されたケースがありますが、最高裁判例は「日本の損害賠償制度は現実に被った被害を補てんすることが目的で、制裁や予防を目的とはしていない」としています。
三菱自
「無罪」主張しながら欠陥車をなくせるか
横浜市で起きた三菱製大型車のタイヤ脱落事故の民事訴訟。欠陥を意図的に隠し、重大事故を起こした三菱側は、「反省」を口にするものの、「制裁的慰謝料」を否定。刑事裁判では「無罪」を主張しています。これで、欠陥車を本当になくせるのか。そんな思いで事件を追ってきました。
二〇〇二年一月十日、横浜市瀬谷区の岡本紫穂さん親子は、レンタルビデオを返すため外出しました。玄関先であった「隣のおばちゃん」に、長男は怪獣のおもちゃを見せました。
事故はその二十分後でした。紫穂さんの背後から重さ百四十キロのタイヤが襲い掛かり、紫穂さんの命と家族の平和なくらしを奪ったのです。
三菱製大型車のタイヤが外れ「凶器」になる―。事故当初、普段では考えられない珍しい事故として、「部品ごと脱落 前例のない事故」、ブレーキドラムごと外れた「前代未聞の事故」と報道されました。しかし、本紙は、当初から欠陥ではないか、という疑問を持ち、取材を続けました。
その後の調査で、三菱側は横浜の事故以前に三十九件の車軸と車輪をつなぐ部品「ハブ」の脱落事故があったことを認めました。前例はあったのです。
しかし、タイヤが外れた原因については、三菱自動車は「ユーザーの整備不良が原因」と主張していました。
交通事故で、自動車の欠陥が原因と認定された例はほとんどありません。交通事故で車の欠陥は「ヤミ」に葬られてきたのです。
「整備不良というのなら三菱の車だけ手を抜いているというのか」。本紙には、全国の整備業者から三菱の見解に批判が寄せられました。
それでも同社は、ハブが整備不良によって破断すると主張し、リコールはしなかったのです。しかし、その後、三菱側はハブの欠陥を認めました。
しかも、ハブ破損事故は、横浜の事故より二年六カ月前の一九九九年六月に、広島県内を走行中のJRバスでも起きていました。このときも「整備上の問題」として欠陥が隠ぺいされました。
横浜市の悲劇は、三菱側がハブ破損事例を知りながら対策を施さなかった結果、起きました。欠陥を隠し続けたためにリコールが遅れ、貴重な人命が失われたのです。
「隠しごとをしないメーカーになる」「お客様の厳しい声を大切にするメーカーになる」。三菱の巨費を投じた謝罪広告が本当なら、制裁的慰謝料についても争わない態度を示すべきです。(遠藤寿人)