2006年4月18日(火)「しんぶん赤旗」

NHK裁判

自民の動き「異例の事態」

元国会対策局長が初証言


 NHKのETV番組が改ざんされた問題をめぐり、取材に協力した市民団体がNHKなどに損害賠償を求めた裁判の控訴審が十七日、東京高裁で開かれ、NHKの国会対策担当局長だった野島直樹前理事が証人として出廷しました。

 野島氏は松尾武元放送総局長とともに、放送前日に安倍晋三官房副長官(現官房長官)と会い、その後に番組は大幅改変されました。

 裁判で野島氏は、番組制作とは関係のない役職にありながら、放送四日前と前日に行われた試写に参加した理由について「放送前の番組が自民党の国会議員の間で話題になったのは異例の事態だったから」とし、試写に立ち会ったのも「初めて」と語りました。

 安倍官房副長官に「NHK予算の説明」をした際、番組制作の責任を負う松尾氏が同行したことも「これまでなかった」と証言。その理由を「かつてない異常事態に対応するため」とのべました。

 しかし、安倍氏からの「圧力」は否定。安倍氏との面談直後に、現場スタッフに台本改ざんを指示したことについては、松尾氏らの意見を「伝えただけ」としました。そのとき、「毒をくらわば、皿まで」と発言したとされますが、「記憶にない」と語りました。

 三月の裁判では、元チーフプロデューサーが上司から聞いたとして、昨年一月に野島、松尾氏らが集まり、「(安倍議員に)呼びつけられたのではなく、こちらから出向いたことにしよう」と口裏合わせしていたと証言していました。それに対し、野島氏は「自分は出席していない」と主張しました。


解説

番組に影響 安倍氏の“助言”

 野島直樹氏が何度も口にしたのは、「異例な事態」でした。試写に立ち会うことになった「異例」さを強調する一方で、番組改変をリードしたのは自分ではない、と繰り返します。しかし、その言葉に力はなく、自信のなさを表していました。

 今回の証言で浮き彫りになったのは、放送前に野島氏が「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」の複数のメンバーと会っていたという事実でした。

 昨年七月、野島氏は陳述書で、国会対策の担当者が「若手議員の会」の古屋圭司議員らから、「予算説明に行った際には必ず話題にされるであろうから、きちんと説明できるように用意しておいたほうが良い」と示唆を与えられたと書いていました。

 その担当者とは、ほかでもない野島氏自身でした。放送前に会った議員として、当時、総務部会長だった荒井広幸氏の名前もあげました。荒井議員は、「若手議員の会」オブザーバーで、安倍氏は同会創立時の事務局長でした。

 見過ごせないのは、野島氏が放送前に面会したのが、安倍、古屋、荒井氏だったということです。昨年十二月のNHK裁判で、番組の最終的な編集責任者だった吉岡民夫元教養番組部長の台本に、「アベ」「フルヤ」「アライ」とのメモがあったことが、「証拠」の中で指摘されていました。この一致は、何を意味するのか。

 野島氏は安倍氏と面会した後、再度、試写をしました。その直後、現場スタッフを除いた席で、松尾、吉岡氏、伊東律子元番組制作局長の三人と一緒に検討会をしています。

 その“検討”の結果、慰安婦の存在が薄められ、政府や軍の組織的な関与や女性法廷を肯定する表現が消されました。代わりに女性法廷に否定的な学者のインタビューが追加されました。安倍氏の“助言”が番組に影響を与えたことは、これらの外形的事実からも明らかです。 (板倉三枝)


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