2006年4月14日(金)「しんぶん赤旗」

NHK人事 自民議員が介入

市民団体が抗議


 参院総務委員会で自民党の山本順三参院議員が、NHK裁判に出廷したNHK職員の証言を取り上げ、人事上の扱いを求めたことに対し、市民・ジャーナリスト団体は十三日、山本議員とNHKに抗議・申し入れをしました。

 抗議したのは、日本ジャーナリスト会議(JCJ)、メディアの危機を訴える市民ネットワーク(メキキネット)、放送を語る会、NHK受信料支払い停止運動の会など六団体。

 問題としたのは、三月三十日の参院総務委員会での山本議員の質問。NHK裁判(三月二十二日、東京高裁)で、昨年一月にETV番組への政治介入が報じられた後、NHK幹部が集まり「安倍晋三衆院議員(現官房長官)に呼びつけられたのでなく出向いたことにしよう」と口裏を合わせた実態を証言した永田浩三衛星放送局統括担当部長について、予算の説明のために出向いたとする「NHKの公式見解と違う」「大変由々しき問題」と非難。NHKの橋本会長に「どのようなけじめをつけるのか」と迫りました。橋本会長は「適切に対処したい」と答えました。

 六団体は、山本議員とNHKの橋本会長あてに「裁判で係争中の事案やNHK人事を国会の場で取り上げたことは、極めて重大問題」とする質問・要望書を提出しました。

 三つの団体が会見しました。放送を語る会の小滝一志事務局長は「司法に対する立法の介入。議員の審議権を逸脱している」と指摘。JCJの石井長世放送部長は「『自主自律』の原則を打ち出したNHKとして自殺行為」と批判しました。

 会見に先立ち、各団体の代表は山本議員の政策秘書・荒木賢治氏と面会。NHK受信料支払い停止運動の会の醍醐聰共同代表は「荒木氏は、山本議員が求めた『けじめ』が、人事上の処分を含んでいることを認めた」ことを明らかにしました。


解説

番組改変の構図再び

 五年前の番組改変事件の構図の再現か―。この問題は、NHKへの事実上の政治介入といえます。山本議員は、「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」のメンバーでした。

 慰安婦問題を扱ったETV番組について、首相官邸で「公平・公正に」と注文をつけたのは、まさにこの団体の事務局長であった安倍晋三官房長官です。山本議員が今回、国会で問題にしたのも、永田氏が三月のNHK裁判で証言した、安倍氏とのかかわりを示した部分でした。

 事件があった五年前、安倍氏とNHK放送総局長が面会した経緯は、政治介入の事実を示す重要なポイントでした。NHKの公式見解をひっくり返す永田氏の証言に、自民党もあわてたのでしょう。山本議員は「NHKのガバナンス(統治)が問われる」と人事上の処分を迫り、NHKの橋本会長は、「伝聞に基づく証言で大変、遺憾」と迎合しました。

 そもそも憲法には三権分立が定められており、ことの真偽は今後の裁判の中で明らかになっていくものです。証人が宣誓に基づいて陳述した証言を、国会の場で攻撃することは、市民・ジャーナリスト団体が指摘するように、立法府による司法への介入です。

 NHKはガイドラインで「放送の自主自律の堅持が信頼される公共放送の生命線である」と明記したばかりです。その「生命線」は、吹けば飛ぶようなものだったのかが問われています。

 (板倉三枝)


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