2006年4月14日(金)「しんぶん赤旗」
自公の教育基本法改悪案
「愛国心」を国家が強要
権力の介入へ足がかり
どこ変える?何が問題?
13日に明らかになった、与党の教育基本法改悪案。協議会、検討会の発足以来、足かけ3年、70回にも及ぶ議論の結果、出てきたものはいったい何だったのでしょうか。
20を超える徳目を列挙
与党案で何より目につくのは、教育の目標として「幅広い知識と教養を身に付け」「真理を求める態度を養い」「豊かな情操と道徳心を培う」など、数え上げると二十以上にも及ぶ徳目を列挙していることです。「目標」である以上、一つひとつの達成度が問われることになります。これではもはや理念法ではなく、教育のあり方をがんじがらめに縛る法律へと、教育基本法が変質してしまうことになります。
徳目のなかでまったく新しく盛り込まれたのが「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」という部分です。「愛国心はゆずれない」という、自民党の安倍晋三官房長官をはじめとする改憲・タカ派勢力の意見を取り込んだ形となりました。
公明党の冬柴鉄三幹事長は十三日、記者会見で「(与党協議は、愛国心を盛り込むことを)国民に十分説明できるものが必要だというところに端を発した」と語りました。もっとも入れたかった中心命題は「愛国心」だったことが、この発言からもわかります。
現行法では、教育が目指すものとして、真理、正義、勤労と責任など、限られたことしか述べていません。心のありようを法律で指図すべきではないという考えが、立法者たちのなかにあったからです。
一方、戦前の教育の支柱だった「教育勅語」には、十四の徳目が掲げられていました。「家庭教育が書いていない、愛国心が書いてない、そういうことを加えていくと、だんだん教育勅語に近づいていく」―教育研究者の大田堯さんは『わたしたちの教育基本法』(埼玉新聞社)でそう語っていますが、与党案はその指摘どおりです。
国が教育のあり方縛る
教育行政については、「教育は、不当な支配に服することなく」という書き出し部分は現行のままとなりました。ただし、「国民全体に対し直接に責任を負つて」という文言は削除されました。この部分は、「国民の意思と結びついて、権力の圧力からは自由に、自主的に行われなければならない」という意味が込められた、権力の圧力に教育が屈しないためのよりどころです。
与党案ではここを、「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべき」と書き換えています。行政権力が「法律にそってやっている」と主張すれば、「君が代」強制などの“愛国心教育”を進める根拠にも使われかねません。
新設される教育振興基本計画にも大きな問題があります。政府が教育内容や教育方法にも大手を振って介入できるようになるからです。
教育のあり方を決めるのは、国ではなく国民―戦前の痛苦の反省に立ったこの教育基本法の根本精神が、百八十度くつがえされることになります。
前文では「憲法の精神にのっとり」という文言が残されましたが、徳目でがんじがらめとなり、教育への行政介入を許せば、「憲法の精神」にのっとりようがありません。
今も色あせない現行法
現行の教育基本法には、戦後の再出発にあたっての「二度と戦前の過ちを繰り返さない」という当時の人びとの決意が込められています。そこに込められた理想は、いまも色あせていません。
一方、与党案からはそうしたものが感じられるでしょうか。新しく盛られた「生涯学習の理念」「大学」「私立学校」「家庭教育」「幼児期の教育」などの項目を見ても、教育基本法にどうしても書かなければならないような内容ではありません。
逆に、前文、教育の目的、教育の機会均等などは、現行法をほぼそのまま引き継いでいます。教育の機会均等では障害者の教育の重視を書き加えていますが、障害児の全員就学を励まし、支えてきた実績が、現行法にはすでにあります。現行法はそれだけ、今にも十分通用する豊かな中身を持っているのです。
結局出てきたものは「国と郷土を愛する」という徳目であり、教育行政の条項を骨抜きにすることだった―。こんな与党案が、国民の「教育を良くしたい」という願いとかけ離れたものであることは明らかです。
(坂井希)
教育基本法 (全文)
われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。
われらは、個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない。
ここに、日本国憲法の精神に則り、教育の目的を明示して、新しい日本の教育の基本を確立するため、この法律を制定する。
第一条(教育の目的) 教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
第二条(教育の方針) 教育の目的は、あらゆる機会に、あらゆる場所において実現されなければならない。この目的を達成するためには、学問の自由を尊重し、実際生活に即し、自発的精神を養い、自他の敬愛と協力によつて、文化の創造と発展に貢献するように努めなければならない。
第三条(教育の機会均等)(1)すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであつて、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によつて、教育上差別されない。
(2)国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によつて修学困難な者に対して、奨学の方法を講じなければならない。
第四条(義務教育)(1)国民は、その保護する子女に、九年の普通教育を受けさせる義務を負う。
(2)国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料は、これを徴収しない。
第五条(男女共学) 男女は、互に敬重し、協力し合わなければならないものであつて、教育上男女の共学は、認められなければならない。
第六条(学校教育)(1)法律に定める学校は、公の性質をもつものであつて、国又は地方公共団体の外、法律に定める法人のみが、これを設置することができる。
(2)法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者であつて、自己の使命を自覚し、その職責の遂行に努めなければならない。このためには、教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が、期せられなければならない。
第七条(社会教育)(1)家庭教育及び勤労の場所その他社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によつて奨励されなければならない。
(2)国及び地方公共団体は、図書館、博物館、公民館等の施設の設置、学校の施設の利用その他適当な方法によつて教育の目的の実現に努めなければならない。
第八条(政治教育)(1)良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない。
(2)法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。
第九条(宗教教育)(1)宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない。
(2)国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。
第一〇条(教育行政)(1)教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。
(2)教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。
第一一条(補則) この法律に掲げる諸条項を実施するために必要がある場合には、適当な法令が制定されなければならない。