2006年4月11日(火)「しんぶん赤旗」
高速船衝突事故
海洋生物との相次ぐ衝突 避けるのが困難な速さ
高速船とクジラとみられる海洋生物の衝突事故は、対馬沖などでも相次ぎ、今年に入って五件目になります。クジラとすれば、なぜなのか。
クジラと船が衝突することは、一九九四年に新潟沖で佐渡汽船が衝突、船体に残っていた肉片と、数日後に打ち上げられたクジラの死がいのDNAが一致したことで判明しています。
今回の一連の事故は、汽船よりもずっと速い高速船のためとみられます。博多港と韓国・釜山を結ぶ高速船が就航したのは、一九九〇年代前半。クジラの研究者は「この船を造る設計の段階で、こういうことが起きると問題になっていた」といいます。
クジラの泳ぐスピードはせいぜい時速二十ノット(約三十七キロ)といわれています。それに比べ、時速八十キロという高速船は、クジラにとってみれば想定外の速さであり、種類によっては避けることがかなり困難なスピードです。
クジラが嫌う音を出す装置(一台一千万円)を設置しているといいますが、同じ音の繰り返しでは慣れてしまいます。
この種の事故が急増している理由に、日本近海でクジラが増えているのではという関係者もいます。水産庁では、「商業捕鯨の全面禁止から、二十年以上が経過しており、クジラ自身が増えているのは間違いない。あの辺だけふえているかどうかは分からないが…」としています。
確かに、南極海ではミンククジラの急増がシロナガスクジラの頭数回復の障害になっているという研究もあります。
いずれにしろ、事故を完全に防ぐには、高速船の運航中止しかないという声も出ており、公共交通機関の安全対策を高速船運航会社まかせにするのではなく、国も対策に乗り出すべきでしょう。(宇野龍彦、橋本伸)