2006年4月9日(日)「しんぶん赤旗」
巨大基地の恒久化だ
政府・名護市長の合意
“最悪の計画に輪をかけてひどくしたもの”―。沖縄の米海兵隊普天間基地に代わるキャンプ・シュワブ沿岸部への新基地建設について、政府と名護市が七日夜に合意した計画に、沖縄県民をはじめ強い批判が起こっています。計画の内容を検証しました。(榎本好孝、田中一郎)
「15年使用期限」なし
政府と名護市の「基本合意書」によると、今回の計画は、昨年十月の在日米軍再編の日米合意(「中間報告」)に盛り込まれた沿岸案を「基本」にしています。その上、滑走路を二本に増やし、新基地の規模を大幅に拡大、恒久化しようとするものです。
基地全体の面積については「具体的に計算していない」(額賀福志郎防衛庁長官)としているものの、「基本合意書」に添付された地図でも、約百三十ヘクタールとされている沿岸案がさらに巨大になるのは一目瞭然(りょうぜん)です。
二本になる滑走路の長さは「中間報告を原則にして協議する」(額賀氏)としています。米海兵隊の最新鋭垂直離着陸機MV22オスプレイの配備を想定した沿岸案の約千八百メートルを軸に今後決められることになります。
沿岸案では、「中間報告」で大浦湾に突き出た部分に「燃料補給用の桟橋」の建設が明記されており、強襲揚陸艦などの大型艦の停泊も可能な最大六百メートルのふ頭も建設できると指摘されてきました。今回の計画では、基地の巨大化によって、港湾施設がより大規模に建設可能になる危険もあります。
しかも、政府と名護市のこれまでの六回にわたる協議では、沖縄県が求めている「十五年使用期限」問題はまったく顧みられませんでした。政府は沿岸案について「十五年使用期限」といった「考えは含まれていない」(大古和雄防衛庁防衛局長)と明言しています。
爆音・危険がさらに
「基本合意書」は「(同市の)辺野古地区、豊原地区、安部地区の上空の飛行ルートを回避する」としています。
しかし、政府や名護市がもともと進めてきた辺野古沖の海上案は最も近い辺野古地区の中心と滑走路が約二・二キロ離れていました。それが沿岸案では一キロになり、今回の計画でもほとんど変わりません。しかも、安部地区は一部、飛行ルートがかかります。
滑走路を二本にし、「進入経路を変更することで、より(米軍機の)展開が可能となり、より危険性が高まる」(我部政明琉球大教授、沖縄タイムス八日付)との指摘がすでにされています。
「基本合意書」に添付された地図は、新基地に配備される海兵隊ヘリが二本の滑走路を使用することも明示しています。額賀氏は訓練で二本とも使用することを認めています。
このヘリに代わって配備が狙われているオスプレイも二本の滑走路を使用することになります。
沿岸案に比べてヘリやオスプレイの運用もはるかにしやすくなるとみられます。
キャンプ・シュワブやキャンプ・ハンセンの海兵隊陸上戦闘部隊と陸海空で一体となった激しい訓練や作戦運用が可能になり、事故の危険や爆音被害はいっそう深刻になります。
自然破壊が広がる
自然環境に与える被害も深刻です。
沖縄周辺海域は、天然記念物の海洋ほ乳類・ジュゴンが生息する北限として知られています。そのジュゴンやウミガメの絶好のえさ場=藻場が広がっているのが辺野古沖の浅瀬です。
政府は辺野古沖の海上案について、埋め立てる藻場の面積を約二―四ヘクタールと説明していました。ところが、沿岸案では埋め立てる藻場の面積は十ヘクタールと最大五倍になっていました。今回の計画では、さらに埋め立て面積を拡大することになります。
それだけではありません。
自然保護協会によると、沖縄本島でのジュゴンの目撃件数の約63%が、沿岸案で示された海兵隊ヘリの訓練ルートの周辺海域と重なっています。今回の計画でもそのルートは変わりません。ジュゴンは、えさ場を奪われた上、回遊する海域の真上でヘリの訓練が行われることになります。
また、埋め立てが計画されている大浦湾側には、これまで沖縄本島で知られていなかった二枚貝類も確認されています。
同協会は、緊急現地調査を踏まえ、「辺野古海域での飛行場計画の見直しを強く要請する」とした意見書を政府に提出していました(三月三十日)。
今回の計画では、大浦湾側の埋め立て面積はさらに大きくなります。自然破壊の拡大は避けられません。
「実行可能」掲げ県民世論を無視
政府と名護市の「基本合意書」は新基地建設の「実行可能性に留意」するとしています。
これは、新基地建設の場所をキャンプ・シュワブ周辺の立ち入り禁止海域にすることで、住民の海上からの反対運動を抑えようというものです。
かつての辺野古沖の海上案では、那覇防衛施設局が二〇〇四年四月からボーリング(掘削)調査を強行しようとしましたが、住民の根強い抵抗で作業は何度も中断を強いられました。
海上での反対運動は、県民世論に支えられたものです。当時の世論調査でも「このまま辺野古沖移設を進める」は、わずか6%(琉球新報〇四年八月二十日付)でした。
沿岸案に対する県民の意思も明確です。沿岸案反対は、県民の72%。このうち84%が、普天間基地について「ハワイやグアムなど米国へ移設する」ことを求めました(沖縄タイムス昨年十一月十五日付)。
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沿岸案 キャンプ・シュワブの兵舎地区を中心に辺野古沖浅瀬と大浦湾に突き出たL字型に建設する計画。それまでの辺野古沖の海上案が行き詰まったため、昨年十月の在日米軍再編の日米合意に盛り込まれました。面積は約百三十ヘクタール。滑走路は一本で、長さは約千八百メートルとされていました。
沖縄基地に関する動き
1995年9月 米海兵隊員による少女暴行事件
10月 米軍基地の整理・縮小を求めた県民総決起大会に約8万5千人
1996年12月 沖縄に関する日米特別行動委員会(SACO)最終報告で、普天間基地の代わりに本島東海岸への新基地建設を打ち出す
1997年11月 政府が、辺野古沖への海上ヘリポート案を沖縄県などに提示
12月 名護市民投票で、建設反対の審判下る
1999年11月 沖縄県が辺野古沖への建設の受け入れを表明
12月 名護市も受け入れ表明
同月 政府が辺野古沖への基地建設方針を閣議決定
2002年7月 政府が新基地の基本計画を決定
2004年4月 那覇防衛施設局がボーリング調査のための作業開始。地元住民らが抗議の座り込み
9月 SACO合意見直しを求めた宜野湾市民大会に約3万人
2005年10月 日米の外交・軍事担当の閣僚級協議(2プラス2)で、辺野古沖案を断念し、沿岸案を打ち出す
2006年3月 沿岸案反対の県民総決起大会に約3万5千人
4月 沿岸案反対の宜野座村民大会に、村民の2割にあたる約1千人が結集
同月 政府と名護市が、滑走路2本の新案で合意