2006年4月7日(金)「しんぶん赤旗」

海自「たちかぜ」 いじめ自殺

遺書に「上官許さない」


 「息子はいじめで追いつめられて自殺した。自衛隊はなぜそれを認めないのか」――。二〇〇四年十月、海上自衛隊横須賀基地の護衛艦「たちかぜ」の一等海士=当時(21)=が、みずからの命を絶ちました。その自殺をきっかけに、暴行・恐喝など同艦内での悪質な後輩隊員いじめが発覚。刑事事件にも発展しましたが、海上自衛隊は自殺といじめとの関連を認めていません。「真相を明らかにしたい」。栃木県在住の両親は五日、国などを相手取り、損害賠償を求める訴訟に踏み切りました。(井上 歩)


主犯格、暴行で有罪に

 「育ててくれて、本当に感謝しています」。〇四年十月、神奈川県内で電車に飛び込んだ一等海士は、背負っていたリュックサックのなかに、一冊のノートを残しました。家族への感謝の言葉、自殺前の心情などがつづられていました。そのなかに、自殺の理由を示唆する一文がありました。

 「たちかぜ電測員○○○へ。お前だけは絶対に許さねえからな。…悪徳商法みてー(な)ことやって楽しいのか? そんな汚れた金なんてただの紙クズだ」

 名指しされたのは一等海士の上官の元二等海曹(35)=懲戒免職=。「たちかぜ」艦内で横行した後輩隊員いじめの主犯格でした。

 後輩隊員にわいせつな画像が入ったCDを売りつけて十五万円を脅しとる。「パンチパーマにしてこい」といったのに従わなかった隊員にエアガンを至近距離で撃つ…。元二等海曹は昨年一月、後輩隊員三人に対する恐喝と暴行の罪で懲役二年六月、執行猶予四年の有罪判決を受けました(判決は確定)。

 判決で横浜地裁横須賀支部は「いじめは艦内では日常茶飯事、常習的で、本件は氷山の一角」と指摘しました。

 実際、いじめ事件についての海自・横須賀地方総監部の「事故調査」(昨年一月結果報告)で、別の海士長が後輩隊員を殴ったり、エアガンで撃った事実も明らかに。上官の分隊長らが暴行を知っていたのに艦長らに報告せず、事実上放置していたことも報告されました。

 この調査は、二等海曹らによる「(自殺した)一等海士に対する私的制裁(暴行・いじめ)、恐喝に関する供述も得られた」と認めました。

 しかし、海上自衛隊の結論は「私的制裁(いじめ)と自殺との明確な関係について確認できなかった」。一等海士への暴行・恐喝は、刑事事件としても立件されませんでした。

両親提訴 「国にも責任」

 両親は五日に起こした訴訟で「一等海士を死に追いやったのは、二等海曹の執ようないじめ。上司はいじめの実態を知りながら放置し、結果自殺に至らせた国の責任も重大」(訴状)と主張しています。

 一等海士の父親(54)はこう話します。「刑事事件では、息子の自殺について、二等海曹に対する責任が問えなかった。はらわたが煮え繰り返る思いです。上官はいじめをもみ消した。なぜあらためようとしなかったのか。海上自衛隊は、なぜいじめが原因で自殺したことを隠ぺいし、責任を認めないのか。真相を明らかにしたいんです」

 両親によると、一等海士は中学・高校ではバレーボールの選手として活躍。高校生のときアルバイトしてためたお金でカナダに語学留学しました。「つらいことを話す子ではなかった」といいます。


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