2006年4月7日(金)「しんぶん赤旗」
医療改悪法案
保険きかない治療拡大
6日の衆院本会議で審議入りした医療改悪法案は、高齢者を中心にした患者への新たな負担増の押しつけとともに、保険が使える医療の範囲を縮小し、公的医療制度の土台を崩す内容が盛り込まれました。お金のない人が治療が受けられない「治療の格差」を生み出す重大な法案です。
(山岸嘉昭)
安心に逆行の「混合診療」
改悪案は、保険がきく診療と保険がきかない診療を組み合わせる「混合診療」を本格的に拡大する方向を明記しました。
現在の日本の医療制度は、公的保険による診療を基本としており、「混合診療」は原則として禁止されています。保険がきかない診療が少しでも入れば、すべて保険適用外としてきました。
例外として「混合診療」を認めてきたのが、一九八四年に実施された「特定療養費」制度です。「高度先進医療」や「差額ベッド代」などが該当します。
今回の改悪案では、この「特定療養費」制度をなくし、「保険外併用療養費」として再編・新設します。
このことによって、「必ずしも高度先進でない医療」や「欧米で承認された国内未承認薬」にも「混合診療」の適用分野を拡大します。「(保険診療で)制限回数を超える医療行為」も「混合診療」の対象にしており、一定回数以上のリハビリテーションなども対象になる可能性があります。この方向がどんどんすすめば、保険外の医療部分が膨れ上がります。
小泉首相は六日の衆院本会議で「保険の対象外の先進的な医療などを利用したいという国民の要求にこたえたもの」と述べ、「混合診療」の拡大を合理化しました。しかし、日本の医療制度は、保険外の医療であっても、安全性や有効性を確認し、保険適用を拡大することで、国民が安心してかかることができる制度として充実させてきました。人工透析や白内障の眼内レンズなどです。「混合診療」の拡大は、これに逆行するものです。
企業負担軽減へ医療費抑制
日本経団連は、医療などの「給付費の増加を抑えるため…保険外サービスと保険サービスの併用を進めるべきである」(〇四年の提言)と大企業の保険料負担軽減の狙いを隠しません。
財界は、GDP(国内総生産)などを目安に、医療費を「経済の身の丈にあったもの」にするよう求めました。改悪案では「医療費適正化計画」を国や都道府県が策定し、生活習慣病や在院日数などの数値目標を定め、それが達成できなかったり、全国平均を下回った場合、都道府県に責任を求める内容です。
六日の衆院本会議で日本共産党の高橋千鶴子議員が「懲罰的な設定にならないか」と指摘したように、国と都道府県が一体で、医療給付費を抑制するしくみづくりです。
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長期入院の高齢者に負担増
「混合診療」本格導入と一体で、いままで公的保険でみていたものを保険から外し、患者の自己負担にすることもすすめられます。
今回の改悪案で、政府が「保険外し」の標的にしたのは、長期に入院する療養病床の高齢者の食費、居住費でした。
療養病床に入院する患者の食費は、これまで一部に患者負担(食材料費相当分で月二万四千円)があったものの、公的保険が適用されていました。また、居住費(部屋代)は公的保険適用分以外の患者負担はありませんでした。
改悪案では、今年十月から、七十歳以上の患者については、食費の調理コスト相当分も保険から外して患者の自己負担とします。この結果、食費の大部分は保険外=患者負担となり、その額は月四万二千円とします。
さらに、居住費(水光熱費相当分)についても、保険から外して、月一万円の負担を患者に押しつけます。この結果、七十歳以上の高齢者は居住費、食費だけで月二万八千円の負担増になります。
二〇〇八年四月からは、六十五―六十九歳の長期入院患者にも同様の負担増が強いられます。
今後、高齢者にとどまらず、入院患者への「保険外し」による負担増がさらに拡大していく危険性があります。
保険外の医療の拡大を熱心に求めているのは、日本の財界やアメリカ系の民間保険会社などです。企業のもうけのために、「治療に格差」を持ちこもうというのです。