2006年4月4日(火)「しんぶん赤旗」
主張
共謀罪
いきつくところは思想の処罰
後半国会にむけて、国民の思想・信条の自由をおかす重大な人権侵害法案が、息を吹き返そうとしています。共謀罪新設法案です。
〇三年の国会に政府が初めて提出し、国民の反対の声で二回の国会で廃案になり、再々提出された昨年の特別国会では継続審議となりました。自民、公明の与党は法案の部分的な「修正」提案を示し、「最初の提案から約三年が経過した。今度は絶対にまとめる」といきごんでいます。
一般の市民が標的に
共謀罪は、二人以上で犯罪の実行を話し合い、合意すれば、そのこと自体を犯罪として扱うとしています。犯罪が実行される前でも処罰の対象となる点で、これまでの刑法とは決定的にちがいます。
戦前・戦中の治安維持法がそうであったように、「行為」ではなく「意思」を犯罪とするもので、内心の自由を犯す思想弾圧法規になると、幅広い市民団体、労組、法曹団体が強く反対しています。
法案は、二〇〇〇年に締結された、国際的な組織犯罪を防止するための国際連合条約に日本が加入する国内法整備だとされています。国際的な組織犯罪に効果的に対処するために、一定の犯罪行為を“抑止すべき犯罪”と定めることは必要でしょう。しかし、国境を越える犯罪の抑止という目的から、対象とする犯罪は「越境性」をもつことを要件とするなど限定的にすべきです。
ところが政府が提出した法案は、四年以上の懲役・禁固の刑が定められているすべての犯罪を対象にしました。対象は六百を超え、消費税法違反など、「越境性」があるとはいえない犯罪も多数含まれます。事実上、刑法上の重罪すべてについて共謀の罪を新設することになります。条約の趣旨からも逸脱して、捜査当局にとって、最も使い勝手のいい法規を新設することになります。
政府は、共謀罪の対象は組織的犯罪集団に限定され、一般市民団体や普通の会社、労働組合は対象にならないと弁解しています。
ところが国会審議で法務省は、「最初は正当な団体として発足しても、途中から組織的犯罪集団と認定される場合もある」と答えました。「組織的犯罪集団」に変質したかどうかを決めるのは警察です。結局、警察の恣意(しい)的な判断で乱用されることに、なんの歯止めもありません。
日本の刑法は犯罪行為を罰するのが原則です。殺人や窃盗などの重大犯罪に限って未遂罪、予備罪を処罰することもありますが、例外中の例外です。共謀罪が設けられれば、当事者だけが知る「共謀」を処罰するため、盗聴の拡大、協力者(スパイ)の使用、自首すれば刑を減免して密告を奨励するなど、無法な捜査が横行するおそれもあります。
市民の思想や言論・表現の自由が侵されるだけでなく、息が詰まるような監視社会が生まれることになります。文字通り自由に物言えぬ国であり、そんな社会は、国民のだれも望んでいません。
修正では本質変わらず
いま国会で議論されようとしている与党の修正案は、適用を組織犯罪団体に限定し、共謀だけでなく「犯罪の実行に資する行為」を要件にするといいますが、共謀罪の危険な本質を変えるものではありません。
国民の基本的人権を侵害し、監視社会への道をおしすすめる共謀罪新設のための法案はきっぱり廃案にすべきです。ごまかしの「修正」を含む一切の策動を許さぬため、反対の世論と運動を大きく広げるときです。