2006年3月29日(水)「しんぶん赤旗」

教育でなく“脅育”

「日の丸・君が代」都教委が強制


 卒業式・入学式で生徒が「君が代」を「起立・斉唱」するよう教職員は「指導」の徹底を――。東京都教育委員会が十三日、都立学校の全校長に出した通達です。職務命令にあたる通達が出たことで、「生徒の不起立」があれば教職員が処分の対象になります。生徒の「内心の自由」を踏みにじる「日の丸・君が代」の一層の強制に、抗議と撤回を求める声が高まっています。(山田芳進)


 「教育が“脅育”になっている」。通達撤回を求める都教委要請で、この三月に都立国際高校を卒業した女性が言います。同校の卒業式では、式の開始の合図で全員が起立した瞬間に「君が代」が流され、「斉唱」を強制。昨年、同校を卒業した姉は「予行演習では『君が代』のことは何も指示せず、当日いきなり歌わせる。ひきょうなやり方だ」と怒ります。

「違反」を処分

 通達が出るきっかけは、十一日に行われたある都立高校定時制課程の卒業式。クラスの大半の生徒が「君が代」斉唱時、起立しませんでした。これに対し、中村正彦教育長名で通達が出されました。その内容は、「校長は自らの権限と責任において、学習指導要領に基づき適正に児童・生徒を指導することを、教職員に徹底するよう通達する」というものです。

 都教委は二〇〇三年十月、教職員に「日の丸・君が代」を強制する通達(10・23通達)を出し、「違反」の教職員を処分してきました。ことし一月、創立記念式典で、「君が代」斉唱時に起立しなかったとして養護学校教諭が停職一カ月の処分を受けました。〇三年以来、校長が出す「起立・斉唱」の職務命令に従わなかったとして処分を受けた教職員は三百人を超えています。

 この強制は、石原都政と自民、公明、民主の各党が一体で、推進・強化してきたものです。

 民主党の土屋敬之都議は、〇三年七月の都議会本会議で「国歌斉唱時に起立もしない教職員がいまだに存在する」「式典運営指針などを制定すべき」と要求。直後に10・23通達が出されました。

 自民党の古賀俊昭都議は昨年十二月、「改めて生徒への適正指導を通達として出すべき」と質問。中村教育長は「卒業式等において学級の生徒の多くが起立しないという事態が起こった場合には、生徒を適正に指導する旨の通達をすみやかに発出」すると答えました。今回の通達は、この答弁が元になっています。

市民らも抗議

 強制をエスカレートさせる今回の通達に、都教組など教職員組合・市民グループは相次いで抗議。「『通達』によって、教職員にあらためて生徒への指導を強制し、生徒の思想・良心の自由を抑圧するようなことは許されない」(都高教)と撤回を要求しています。

 「卒業式とは、三年間の教育の総括であり、最後の授業です」。職務命令違反で処分された元都立高校の校長(62)はこう語っています。「もっとも大切なのは、生徒を主体とし、その親の気持ちを大事にし、みんなで感動的な卒業式にするということです。『日の丸・君が代』をもっぱら目的とする式を一律に強制するような職務命令に、教育論はありません」


 10・23通達 国旗は舞台正面の左、都旗は右。教職員は国旗に向かって起立し、斉唱する―などの式のやり方を細部まで決めた「実施指針」。校長の職務命令に従わなかった場合、責任が問われるとしています。


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