2006年3月25日(土)「しんぶん赤旗」

志賀・運転差し止め判決

全原発への警告

耐震基準の見直し急務

現実に合わない「想定」


 金沢地裁が志賀原発2号機の運転差し止めを命じた判決は、全国にある原発の耐震性への重大な警告です。現在の原発の耐震基準に科学的根拠がないことは、これまでの地震で実証されています。原子力安全委員会は耐震基準の見直し作業を進めていますが、今回の判決は、抜本的な対策が実施されないかぎり、原発の運転は認められないという立場です。(前田利夫)


地図

 昨年八月十六日に宮城県沖で起きたマグニチュード(M)7・2の地震の際、東北電力の女川原発(宮城県女川町、石巻市)が乗る岩盤の上の揺れが、想定されていた「設計用限界地震」の揺れを上回りました。

 原発の「耐震設計指針」は、「想定されるいかなる地震力にたいしても十分な耐震性を有しなければならない」と規定。想定される地震力として、「設計用最強地震」によるS1と、「設計用限界地震」によるS2を定めています。

 女川原発ではS1が二五〇ガル、S2が三七五ガルとなっています。八月十六日の地震では、1号機原子炉建屋地下の計測で二五一・二ガルを記録し、S1を上回りました。宮城県沖では、M7・5からM8・0の地震が予測されています。「歴史的資料などから最も大きい地震」として想定されたはずの「設計用最強地震」(S1)にまったく根拠のなかったことが明らかになりました。

 さらに、女川原発構内の岩盤で観測したデータを揺れの周期ごとに解析した結果、周期が〇・〇五秒付近で、S2で想定している揺れを大きく上回っていました。S2は、S1を上回る限界的な地震による地震動と説明されてきました。これも根拠が崩れました。

「限界」上回った鳥取県西部地震

 現在日本には、建設中も含めて五十七基の原発があります。そのS1、S2を表に示しました。原発の建設にあたっては、施設を安全上クラス分けし、原子炉圧力容器、格納容器など、一部の施設にたいしてだけS2の地震動を想定した耐震性を求めています。緊急炉心冷却装置などはS1の地震動で設計されます。

 S2は、「過去の地震の発生状況、敷地周辺の活断層の性質」などを考慮したうえで、直下で起きるM6・5の地震を考慮して決めることになっています。これが現実に合わないことが、これまでの地震で明らかになっています。

 二〇〇〇年十月六日に起きた鳥取県西部地震はM7・3を記録しました。この地震の前に、このような地震を起こす活断層の存在は知られていませんでした。直下での最大地震をM6・5と想定することに、何の科学的根拠もないことが明らかになりました。

 しかも、鳥取県西部地震では、震央(震源の真上)から約八キロメートル離れた場所で、地下百メートルの岩盤に設置された地震計で最大五七四ガルを記録しました。この揺れの大きさは、日本の原発のうち、浜岡原発3―5号機を除くすべての地震想定を上回っていました。

 判決でも、「(北陸電力側の)調査で活断層が見つからなかったからといって、本件原子炉の直下にマグニチュード6・5を超える震源断層がないと断ずる合理的な根拠があるとは認め難い」と指摘しています。

25年前の指針で設計された原発

 今回の判決は、志賀原発2号機の問題にとどまらず、日本のすべての原発の耐震性に警告を与えるものとなっています。

 とくに、東海地震の震源域に位置する中部電力・浜岡原発にたいしては、地震学者らから強い警告が出されています。

 中部電力は、これまでずっと、東海地震が起きても大丈夫と説明してきましたが、昨年一月、五基の原発について耐震補強工事を実施すると発表しました。しかし、この補強工事で、どの程度耐震性が補強されるのかは明らかでありません。

 現在の耐震設計安全指針は、一九八一年に定められました。現行の「耐震指針」をもとに設計された原発の耐震性に科学的根拠がないことははっきりしています。最低限、これまでに得られた地震学の研究成果や観測データをもとに、すべての原発の耐震安全性を見直すことを早急に行う必要があります。

図

 加速度単位ガル 地震の揺れの強さは、揺れの振幅の大きさ、揺れの速度、揺れの加速度で表されます。加速度は揺れによって物体に加わる力に相当します。ガルは加速度の大きさを表す単位で、地球の重力の加速度は九八〇ガル。九八〇ガル以上の上下動が生じると、地上の物体が空中に放り出されます。


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