2006年3月22日(水)「しんぶん赤旗」

「自立支援」法で新たな矛盾

障害者が福祉工場で働くと

なぜ金とられる


 障害者と健常者が分け隔てなく働く福祉工場―。北海道から沖縄まで、およそ百事業所。四月の障害者「自立支援」法実施を前に不安の声があがっています。障害者自身が粘り強い運動で行政とともにつくりあげた障害者雇用の草分け的存在、熊本市の「熊本コロニー印刷」を訪ねました。(佐藤高志)


熊本にみる

 熊本市内中心部、閑静な住宅のなかにある古い赤レンガの塀に囲まれた三階建ての工場。熊本コロニー印刷が活気づくのは朝八時半に始まる朝礼からです。下肢障害、聴覚障害など障害者四十人、健常者四十人が続々と出勤します。

 障害者を多く雇うため社会福祉法人に認可されていますが、仕事は一般企業と変わりがありません。

 インクの香りがただよう工場内。デスクに座ってコンピューターに向かい、健常者と障害者が同じ仕事をしています。

 下肢障害をもつ秋山雄次係長(46)は、十数人の部下を指揮します。「健常者にも仕事を教えていますよ。工場には、障害者だから介助サービスを受けているという観念はありません」と秋山係長。給料は職種による違いだけ。障害のある、なしによる差は一切ありません。障害者も賃金から税金・保険料を納めています。受注が激減した時も、設備改善や技術革新で所員が一丸となって不況を乗り切ってきました。

 しかし、今年四月から障害者「自立支援」法が実施されると、「福祉工場」は障害者の“福祉施設”として一割の負担が適用になります。

 働く障害者は“福祉サービスを受けている者”とみなされ、利用料(概算予想で月一万円)を負担することになります。

 「私たちは、みんな工場に働きにきているんですよ。それなのに、なぜ障害者だけが『利用料を払え』と迫られるんでしょう。会社に行って仕事をしたら『利用料』を払う健常者がいるのですか。こんな話は通らない」。秋山係長の言葉に悔しさがにじみます。


月給12万円 利用料1万円に不安

 障害者と健常者がいっしょに働く福祉工場「熊本コロニー印刷」で働きだして十年になる君塚洋平さん(34)=仮名=は、市内で一人暮らし。月給は手取り十二万円ほど。難聴の障害がありますが、障害基礎年金は受給できる資格がなく、工場で働く給料が収入のすべてです。

1日1回の食事

 「給料が安いから転職もちょっと考えたことがあるけど、障害者の就労条件は、どこも厳しいから…」と君塚さん。節約のために一日一食しか食事をとりません。それも一日五百円程度という質素なもの。新たに利用料負担が一万円も押しつけられたら…と不安がよぎります。

 「『自立支援』法は、現実を見ていない机上で作られた法律といわざるをえない」と指摘するのは、熊本コロニー印刷労働組合の山田猛委員長です。山田さんは脳性マヒの障害がありますが、日常生活でも、パソコンに文字やレイアウトを入力するオペレーターの仕事でも介助サービスは必要ありません。

 「工場は、労働者が日々切磋琢磨(せっさたくま)しあいながら、仕事をする職場です。『自立支援』法は、この職場を施設に戻せと迫るものです。まったく実態にあっていない」と声を震わせます。

実態に合わせて

 利用料負担に反対する声は、労働問題としても取り上げられています。熊本コロニー印刷の運動とあわせて、日本共産党の熊本県委員会、市議団も福祉工場への「自立支援」法の適用凍結を求めて国、自治体に働きかけています。熊本県労連も運動に加わりました。

 熊本コロニー印刷労組の楳本光男書記長は、こう強調します。「利用料負担は、職場に健常者と障害者との分断さえ持ちこみかねません。仮に実施されても、利用料は事業所が負担すべきですが、そのことは工場経営そのものの負担増になります。このままでは工場自体の運営にも支障が生まれることは目に見えています」

党も各地で対話

 日本共産党は「自立支援」法の実施を前に重い利用料負担に対し、負担上限額の見直しや減免策の充実を求めた「緊急要求」を発表し、各地で対話を広げています。「自立支援」法実施による問題について上京し、政府交渉を進めてきた日本共産党の益田牧子熊本市議は、いいます。

 「『自立支援法』の四月実施で、障害者の就労や生活に大きな影響が出ます。党の政策をもとに、実態に見合った施策をするよう運動を大きく広げていきたい」


 福祉工場 働く意欲や能力をもつにもかかわらず、一般企業に雇用されることが困難な障害者に就労の場を提供しています。障害者「自立支援」法は、既存の障害者福祉施設を機能に応じて二〇〇六年十月から五年かけて新しい事業体系へ移行。厚生労働省は「福祉工場は雇用型の就労支援事業への移行を想定している」(二月十四日、党熊本県委の政府交渉)としており、福祉工場で働く障害者に利用料が発生することを認めています。


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