2006年3月14日(火)「しんぶん赤旗」

岩国住民投票

基地強化反対の声を“地域エゴ”というのか


 米空母艦載機の岩国基地移転に「反対」が多数を占めた岩国市の住民投票の結果にかかわらず、小泉純一郎首相はあくまで最終合意を強行する考えを示しました。首相自らの言明も、日米間の合意もほごにしようとする許し難い態度です。

 首相はかつて、在日米軍再編をめぐり「政府は自治体に事前に相談し、自治体がオーケーした場合には米国と交渉する」(二〇〇四年十月)と明言していたことを忘れたのでしょうか。昨年十月の在日米軍再編の日米合意(中間報告)も、最終合意までに「地元との調整を完了する」と約束しています。

 今回の投票結果について首相が「賛成か反対かと言えば反対だろう」と人ごとのように言うことが許される問題では決してありません。首相の言明に照らしても、岩国市民の声を正面から受け止め、米国と交渉することこそ、責任ある態度であるはずです。

自治体の「責務」

 自民党内では、住民投票の結果を無視して最終合意を強行するため、「安全保障の問題に、地域の論理を優先しようとする風潮」(武部勤幹事長)、「安全保障や防衛は国に責任があり、(住民投票は)適当ではない。一種の地域エゴイズムだ」(片山虎之助参院幹事長)という暴論が噴き出しています。

 しかし、在日米軍再編にあたり地元と事前に相談をし、意向を聞くと約束してきたのは、政府・自民党自身です。今になって「地域エゴ」と言い出すのは、初めから地元の声に耳を貸すつもりがなかったことを自ら告白するのと同じです。

 住民投票は、「地域の論理の優先」や「地域エゴ」ではありません。

 「安全保障」や「防衛」の問題であっても、自治体が住民の意見を聞くのは、「地方自治」を保障した憲法や、「住民の福祉の増進」を目的にうたった地方自治法に照らして当然であり、むしろ責務です。

 しかも、今回問われた計画は、岩国基地を常駐機数などで世界最大の規模の米軍航空基地にするものです。事故の危険や爆音被害が激増し、周辺住民の命まで脅かすものであればなおさらです。

 今の憲法に、「安全保障」や「防衛」を、政府の専管事項と明記した規定はありません。それを「国の責任」だから住民は黙って従えと言うのは、戦前の国家統制思想と何ら変わりません。

安全保障と無縁

 政府は、米空母艦載機の岩国基地移転について「日本の安全保障の面からぜひとも実現しなければならない事案だ」(額賀福志郎防衛庁長官)ともしています。

 しかし、米空母とその艦載機部隊が米本土以外に駐留しているのは、世界で日本だけです。日本以外に、自国の安全保障を理由に米空母の駐留を求めている国はどこにもありません。

 米空母はもともと、海外遠征を専門とする「日本の安全保障」とは無縁の部隊です。日本を足場にアフガニスタン戦争やイラク戦争に地球規模で出撃しているのが実際です。

 米空母艦載機を岩国基地に移転する計画は、同基地の海兵隊航空部隊との統合で、その“殴りこみ”能力をいっそう強化するのが狙いです。

 在日米軍再編の「中間報告」が今回の計画を「米空母及び艦載機の長期にわたる前方展開の能力を確保するため」としているのは、米国の世界戦略のためです。それを「日本の安全保障」のためと強弁するのは、政府の対米追従の異常さを際立たせるだけです。(榎本好孝)


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