2006年3月10日(金)「しんぶん赤旗」

量的金融緩和の実態

解除での影響は…


 日本銀行は九日、二〇〇一年三月から続けてきた「量的金融緩和」の「解除」を決めました。庶民の預金は「ゼロ金利」に抑えたまま、金融機関には使い切れないほどの大量の資金を供給するという「異例の政策」(福井俊彦総裁)でした。その実態は? これからの暮らしへの影響はどうなるのか。「Q&A形式」で考えてみました。(矢守一英)


金融機関はカネ余り

  そもそも「量的金融緩和」とはどんなことなの?

  日本銀行が金融市場に多額の資金を注ぎ込む政策です。世の中に出回るお金を増やし、経済活動をより活発にさせるといううたい文句で、二〇〇一年三月に導入されました。

 それまで日銀は、「公定歩合」(日銀が民間金融機関に貸し出す際の基準金利)を引き上げたり下げたりすることによって景気をコントロールしようとしてきました。

 一九九〇年代の長期不況の中、日銀は資金面で一般企業の経済活動を支えるためとして、公定歩合を連続的に引き下げ、二〇〇一年には0・1%にまで下げました。しかし、景気はよくならず、金融政策も行き詰まる中で出てきたのがこの異例の政策でした。

 金融政策の目標を「金利」からお金の「量」に変えたことが「量的緩和」の名前の由来です。

 一般の金融機関が持っている国債や社債などを少し高い値段で日銀が大量に買い上げ、その分の現金を、民間金融機関の日銀当座預金口座に振り込みます。当座預金は民間銀行などが銀行同士のお金のやりとりのために日銀に開設しているもので、無利子です。

 こうした操作を通して、日銀は大量の資金を金融機関に流し込んできました。

 当座預金の残高目標額は、導入当初の五兆円からどんどん引き上げられ、今では三十兆―三十五兆円に膨れあがっています。

 当座預金に積まれたお金は結局は世の中に回らず、民間の金融機関をカネ余り状態にしただけでした。


中小企業に貸し渋り

  効果はあったの?

  日銀は「量的金融緩和」が経済や金融の安定に「相当な効果を発揮した」(福井総裁)としていますが、実態は違います。

 民間の金融機関は、自民党政権の「不良債権処理の推進」という金融行政のもとで、貸し渋り・貸しはがしを横行させてきました。金融機関の中小企業への貸し渋り姿勢は、「量的緩和」で潤沢な資金供給を受けるようになってからも変わっていません。

 大阪府中小企業家同友会事務局の長島健治さんは、銀行の中小企業融資の実態について「業績のいい企業には貸し出し攻勢をかける一方で、状態の悪い企業には貸し渋りと二極化がはっきりしてきた。無担保融資が増えてはいるが、高い金利をとられるため経営の負担が大きくなっている」と話します。

 日銀の発表によると、銀行の貸出平均残高(二月)は、九七年比で百五十兆円も減少。前年同月比では八年二カ月ぶりに微増となった中で、都市銀行など大手銀行は依然としてマイナスが続いています。

 なかでも、国内銀行の中小企業向け貸し出しは、減少傾向がとまらず、二〇〇〇年末の約二百三十兆円が二〇〇五年九月末には、約百七十二兆円にまで減っています。


大損させられた国民

  誰が得をした?

  「量的緩和」で金融機関に余った資金は、国債の購入をはじめ、株式市場や大都市圏の不動産投資、目先の利益を狙った企業買収などマネーゲームにつぎ込まれています。

 米国市場にも流れ、財政と貿易の双子の赤字を補いました。

 一方、超低金利になったことで、庶民の預金利子は無きに等しい状態です。

 日銀の白川方明理事は、一九九一年の利子収入が続いたと想定して推計すると、二〇〇四年までに国民が失った利子は三百四兆円にのぼることを明らかにしました。

 現在の一年定期の預金金利は平均0・03%。百万円を一年預けた場合でも利子はわずかに三百円です。受け取る利子は九一年の二百分の一にすぎません。

 大企業への貸出金利は、九一年当時の四分の一程度に下がっています。財界も「量的緩和」の効果で「三つの過剰(負債、設備、人員)はおおむね解消された」(経済同友会)と手放しの評価を加えています。

 結局、超金融緩和で得をしたのは、ただ同然の金利で国民から預金を集めて貸し出しに回してきた銀行と、借金の金利負担を軽減してきた大企業。逆に大損させられたのは国民です。


暮らしへの関わりは

  身近な暮らしに影響は出てくるの?

  「量的緩和」が解除されると「すずめの涙」の預金金利も上がるのではという期待が生まれています。しかし、銀行は日銀の政策目標が金利に移っても、当面は「ゼロ金利」が続くことを理由に、いまのところ預金金利を引き上げることを考えていません。

 住宅ローン金利については、長期金利の上昇幅に連動して上がることが予想されます。現に長期金利は上昇局面にあり、住宅ローン金利の引き上げも行われています。

 庶民にとっては、預金の超低金利、住宅ローンの金利上昇に加え、大増税と社会保障の負担増がのしかかり、家計は三重苦に見舞われることになります。

 国民の利子を吸い上げ、国民の税金投入(公的資金)を受けて大もうけしてきた銀行は、住宅ローン金利の引き上げはやめ、預金金利の引き上げなど国民への還元を考えるべきです。

グラフ

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