2006年3月9日(木)「しんぶん赤旗」
社会リポート
民間航空 安全に支障
岩国への米艦載機移転
狭い空域 さらに圧迫
横須賀港(神奈川県)を母港にする米空母キティホーク艦載機の厚木基地(同)から岩国基地(山口県)への移転を打ち出した「米軍再編計画」。米海兵隊戦闘機と合わせて百機を超える米軍機の集中は、「それでなくとも狭い中国・四国地方の民間航空路を圧迫する」と航空関係者から不安の声があがっています。(山本眞直)
「米軍戦闘機だな」。二月中旬、羽田から愛媛県の松山空港にむかう瀬戸内上空の日航機。機長は、接近する航空機の存在を示す画像の機影を見つめました。
視界に入った、早い速度で重なるように飛行する小さな二つの機体。以前からたびたび目撃している編隊飛行の米軍機と確信しました。
「幹線航空路」
岩国基地の上空から日本海、四国周辺までをおおう空域は米軍の管制空域です。松山空港を離着陸する民間機はすべて米軍岩国基地の許可が必要。周辺空域は東京や大阪から九州、四国方面への民間航空路で、中国などへ向かう国際線をふくめ「日に数百便が飛行する幹線航空路」(現役の民間機長)です。
岩国基地にはすでに米海兵隊戦闘機五十七機が常駐しています。ほぼ同数の艦載機が移転すれば「アジア最大」といわれた沖縄県の嘉手納空軍基地を上回る、世界有数の戦闘機基地になります。
空母出港時には、滑走路を空母の甲板に見たてた離着陸訓練(FCLP)を実施します。訓練は昼夜にわたり、飛行回数は一カ月で五、六千回(厚木基地)に達します。
岩国基地での訓練強化は必至で、これによる民間航空への「支障は避けられない」(航空評論家)といわれています。
管制に影響も
艦載機の岩国移転は西日本の「空の交通整理」にあたる国土交通省福岡航空交通管制部にも影響が及ぶ、と指摘するのは全運輸労働組合の田代彰中央執行委員。
田代さんの職場は埼玉県所沢市の国交省東京航空交通管制部です。
「きた」。神奈川・江ノ島沖の相模湾に沿って設定された民間航空路を断ち切るように、連続して接近する飛行物体が管制レーダー画面に映しだされます。
海外での作戦行動から横須賀に帰港途中、太平洋上の米空母から厚木基地に向かう艦載機で、出港時は逆です。いずれも四十機から五十機の艦載機が二時間近い間に集中的に飛びかいます。
管制部にはこのとき、艦載機を監視する管制官が臨時に配置されるといいます。管制官の一人がいいます。
「レーダー上にこのまま行けば三分後には飛行機同士の間隔がなくなる、つまり衝突するとの警告を示す『CNF』(異常接近警報)の赤い文字が民間機の便名下に点滅するんです。それが刻々と接近する。米軍機は通常、管制部とはコンタクトをとらず自由に飛べる有視界飛行方式です。旅客機などとちがい小回りのきく米軍機は民間機を見て、直前で回避しますがわれわれの不安、緊張感は相当なものです」
「空域」の調整
岩国基地と松山空港間はわずか六十キロ程度の距離。松山空港を使うベテラン機長は「日米安保条約の適用除外でほとんど規制をうけず、狭い空域を空母艦載機が自由自在に飛びまわることは不安です。米軍空域が拡大されれば民間航空は圧迫され、安全運航に影響がでかねない」と表情を曇らせます。
一九九七年十一月十二日に、高知県上空で岩国基地のFA18戦闘機が日航機に異常接近(ニアミス)した事例もあります。
日米政府は、艦載機の岩国移転で米軍空域の「調整・整備」を打ち出しています。防衛庁は「空域整備は日米で協議中」(内局広報)として具体的な検討内容は明らかにしていません。