2006年3月7日(火)「しんぶん赤旗」
投資事業組合
ライブドアが悪用
所管省庁「わからない」 収益は自己申告
脱税の抜け道に
ライブドア(LD)社の証券取引法違反事件で不正行為に悪用された「投資事業組合」。登記や届け出の義務がないため、全国にいくつ組合があって、どんな人が出資してどれだけ利益を得ているのか、政府も把握できていません。その利益に対してかかる税金は徴収できるのか。国税庁関係者や専門家は「その気になれば完全に脱税できる。どれだけの税金が失われているか推測もできない」と指摘します。(安川崇)
LD社事件で利用されたのは、民法上の任意組合としての投資事業組合。資金の流れを表に出さない「隠れみの」として使われました。これを所管する省庁はどこか、各関係省庁に聞いてみました。
“うちではない”
投資事業有限責任組合(ファンド法)を所管している経済産業省の話。
「民法の組合については、うちじゃありません。民法を所管しているのは法務省なので、そちらでは」
法務省は「確かに民法を所管していますが、投資目的など任意組合の活動内容を把握するのはうちじゃありません。そこはおそらく金融庁では」。
金融庁に聞くと―。
「現状では何ら所管していません。組合を登録制にする法改正を準備中ですが」
――結局、どこが担当しているのか。法務省の職員は言いました。「どこが所管とも言いがたい。わからないんですよね」
売却益“ヤミ”に
LD社事件で、投資事業組合は数億円単位のカネを動かしたとされます。株式取引で得た売却益は課税の対象になります。では投資事業組合を通して利益を得た場合、課税はどうなるのか。
「投資事業組合は法人格を持たないので、課税対象ではありません。収益は出資した組合員が受け取るので、組合員に直接課税します」
国税庁課税総括課の説明です。では組合員が利益を得たことをどうやって把握するのか。「収入があれば申告に反映していただくことになっています」
収入を隠し、申告しなかったら?
「把握するため、インターネットや報道のほか、さまざまな情報収集に努めています」
国税庁に四十年間勤め、課税業務をよく知る都内の税理士は「すべての取引を把握するのは不可能。組合員全員が口裏を合わせれば、完全にヤミにできる。巨額の取引でも、帳簿上は全く消してしまうことができます」と語ります。
当のLD社が利用したとされる組合の所得は把握されていたのか。「個別のケースについては、厳格な守秘義務があり回答できない」(国税庁)が答えでした。
脱税対策強化を
「あまり議論されていないが、かなりの額の税金がヤミに消えているとみられる。正直者だけを想定した制度で、限界がある」
『日本地下経済白書』などの著書があるエコノミスト、門倉貴史さんは指摘します。
「政府は庶民への増税計画を進めているが、まず脱税対策を徹底するのが大前提。現状では『公正な課税』とは言いがたい。税収難というが、地下に埋もれた経済活動からの徴税を強化するだけでも、税収はかなり改善するはずだ」
門倉さんは、徴税業務に携わる職員の増員も必要だといいます。「構造改革といって、国家公務員をただ減らせばいいというものではない。非効率な部分は削ればいいが、絶対数が足りない分野は増員すべきだ」
ライブドアと投資事業組合
LD社の子会社、ライブドアマーケティング(LDM社)は〇四年十月、株式交換による出版社の子会社化を発表しました。しかし実際には、LD社が支配する投資事業組合が出版社を事前に買収済み。組合は株式交換で入手したLDM株を高値で売り抜け、売却益はLD側に還流したとされます。
LD社は複数の投資事業組合を利用し、同様の手口で株価をつり上げては売却益を還流させていたとされます。
投資事業組合 組合員が出資したカネを元に、企業やファンドなどに投資し、その結果得られた利益を組合員に再分配する組織。いくつかの種類があり、民法上の「任意組合」や商法上の「匿名組合」、機関投資家の投資拡大を狙って政府が九八年に導入した「投資事業有限責任組合」などがあります。LD社が利用したのは、登記や届け出の義務が一切ない民法の任意組合とされます。
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